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「あ、お疲れ様です。」
「お、見ない顔だな~、新人か?」
「はい、中途採用でこの前入社しました。後藤と申します。よろしくお願いします。」
第一印象は「冴えない男」だった。少し長めの前髪と猫背のせいで顔が見え辛いが顔は悪くない、と思う。が、大人しいというか地味というか…。
「後藤くんね~、俺は営業部の先崎。今後もちょこちょこ顔出すと思うからよろしく。ところで香菜ちゃ…羽田さん居る?」
挨拶もそこそこに俺はいつも仕事をお願いしている女性社員を探した。
「あ、羽田さんならさっきちょうど買い出しに…。少し遠くまで行くと仰ってたので、30分くらいかかるかと…。」
「30分かぁ、参ったな…。」
「あの、自分でも分かることなら伺いますよ。」
「すまん、助かる。この在庫なんだけど、すぐ調べられるかな?ちょっと急ぎの案件でさ。」
話ながら手にしていた資材一覧のリストを後藤に見せる。
「急にこのリストの資材を発注したいって連絡が入って。ここまでは在庫にまだ余裕があると思うんだけど、最後のこれがもう品薄だったんじゃないかと思って…」
「あぁ、そうですね…。この部品は先月末に発注したので来週にならないと届かなくて…。でももしかすると隣県のB倉庫の方にまだ在庫があるかも、問い合わせるので少し待って頂けますか?」
「ありがとう、助かる。」
入ったばかりなのにずいぶんテキパキしてるなぁ。中途採用とはいえまだ若いし、仕事のコツを掴むのが早いやつばかりじゃないはずなのに。
「先崎さん!ありましたよ、在庫!今回の発注数なら用意できそうです!」
電話を切った後藤がパッと顔を上げ、さっきまでの大人しい様子からは意外な、少し幼さも感じさせるような笑顔を俺に向ける。
「…そうか、ありがとな!助かったよ。」
その笑顔に思わず一瞬返事が遅れてしまった。
「…?どうかしましたか?」
俺の微妙な反応を見て、後藤が首を傾げる。
「あ、いや、自分の事のように喜んでくれるんだなと思ってさ。」
何で動揺してるんだ?俺は。
「あ、すみません、つい。お客様に良い報告が出来ると思ったら嬉しくなっちゃって。」
今度は照れた顔でそう言うものだから、その百面相が面白くなってしまった俺は、
「よし、羽田さんも誘って後藤くんの歓迎会やろうぜ!」
と、出会ったその日にそんな事を言ってしまったのだった。
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