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「どうかなさいましたか?」
「⋯⋯いや。自覚がないとは罪なことだと」
「は?」
「彼は、この先も死ぬ気で貴方をお守りするでしょう」
それはそうだろう、と思いながら王子を見れば、小さくため息をつかれた。
サフィードの案内で山を下りた先には、小さな村があった。
数軒の家に小屋。拓いた土地に畑が続き、柵の中では家畜たちが草を食んでいる。
「イルマ様あああああ」
セツが走ってくる。さぞかし泣かれるだろうと思ったが、そうでもなかった。
「それはもう、すごかったですよ⋯⋯」
セツが青い顔をしている。シェンバー王子の侍従のレイも黙って頷く。
山賊たちを捕らえた後、ぼくを探すのは最重要事項だった。応援を呼ぶために一番近い騎士団の駐屯地に、すぐさま近衛を走らせた。捕らえた者たちには、ぼくを連れ去った場所を吐かせねばならない。
「なかなか居場所を言わない奴らにキレたサフィード様は、悪魔のようでした」
全く、想像がつかない。村人たちがサフィードを遠巻きにしていると思ったのは、勘違いではなかったようだった。
「途中でシェンバー王子が、捕らえた者たちと自分だけにしてほしいと仰いました。サフィード様を止めて、殿下の居ると思われる場所を、いくつか聞きだしたんです。それから、ぼくたち二人と連絡役以外は総出で山に入りました」
王子も行くと聞いて止める声も上がったが、一晩たっても見つからなければ戻る約束だったと言う。
「殿下の居場所を聞き出してくださったのも王子だったので、皆お止めできなかったのです」
村の人々は親切で、時ならぬ客を温かく迎えてくれた。ぼくと王子にスープや焼いたばかりのパンが運ばれる。
これは、ここの村の大事な食糧だろうに。そう思って、少しだけもらうよ、と言えば村長が平伏する。
「ここ十数年もの間、気候も良く山も大地もたくさんの恵みを与えてくださる。蓄えは十分にあります。これも女神のお力です。どうぞ食べてくだされ」
温かい食べ物は力がつく。パンを少しずつスープに浸して食べた。あまり顎を動かさずに食事ができたのは、ありがたかった。
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