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◇◆
「あれは⋯⋯、どうかと思うぞ」
「こじれてるんですかね、あの二人」
扉の隙間から覗き込んでいた二人の王子は呟いた。
「⋯⋯イルマが、フィスタを離れるなんて!」
王子たちの後ろにいた王太子の弱々しい声が続く。
「アレイド兄上、イルマはシェンバー王子に断られたんですよ。ちゃんと目を開けて見ていらっしゃいますか?」
ラウド王子は後ろを振り返り、長兄に呆れた声で言った。
「ほら、すっかりしょげ返ってますよ」
王子たちの目に、丸まった栗鼠のような弟の姿がうつった。
◆◇
「殿下! もういいじゃないですか! 断られたんですから!!」
なぜかセツは、猛烈に怒っている。
「れ、レイもレイです! 殿下が折角お心を決めたのに、あんな⋯⋯」
「サフィード」
「はい、殿下」
「ぼくは、また何か間違えたんだな」
一生懸命考えて決めたけれど、王子の心を傷つけた。だからあんなにはっきりと断られたんだ。
騎士は、少し考えてから言った。
「私は、少々違うと思いますが」
「なにが?」
「シェンバー王子は、殿下のことを考えて仰ったのではないでしょうか」
「はああ? 何を仰ってるんです! サフィード様!!」
「セツ、ちょっと黙って!」
ぼくは、セツを無理やり黙らせた。
「⋯⋯女神の許に行った時のことを覚えておいでですか?」
「うん」
「私は、殿下がお戻りにならないのなら、いっそ水底で果ててしまいたかった。私には、どんな時もずっと殿下お一人しか見えておりませんでした」
「サフィー⋯⋯」
サフィードは、穏やかな微笑みを浮かべていた。
「でも、シェンバー王子は、ご自分が女神の許に残るから、私と殿下をフィスタに戻してほしいと言われたのです。湖畔屋敷にいる間も度々立ち寄られて、私に殿下の話をしていかれました。⋯⋯本当は、優しい方なのだと思います」
「王子は⋯⋯ぼくのことを考えてくれたのかな」
「推測でしかありませんが」
「サフィーこそ、いつも優しい。今だってこうして慰めてくれる」
夜空の月でも取ろうとしてくれた。
ぼくの大事な守護騎士。
「ありがとう、サフィ―ド。どうしたらいいのか、もう一度考えてみる」
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