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◇◆
黒髪の騎士が廊下を歩いて行くと、ラウド王子が声を掛けた。
「どうして、騎士っていうのは自分の気持ちをちゃんと言わないのかねえ」
「⋯⋯何のお話です、ラウド殿下」
「お前も、シェンバー王子もだよ。戦うことは得意なくせに、肝心のことは遠回しになる」
「⋯⋯お伝えしてますよ」
「ふーん」
「後は、イルマ殿下がお決めになることです」
ラウド王子は、肩をすくめた。
「以前、父上が仰っていたことがある。イルマは、愛することを知らぬ。全ての好意に背を向けていると。そして、それは明日を教えられなかった自分たちの責任だと。あいつは今からでも、自分で考えて、その手で選ばなければだめなんだ」
独り言のように呟いて通りすぎる王子の姿を、サフィードは黙って見送った。
シェンバー王子が、スターディアに帰る日がやってきた。
王宮の門に、たくさんの見送りの者たちが立ち並ぶ。
アレイド王太子が、きょろきょろと周りを見回す。
「ん? イルマ、イルマはどこに行った?」
式典の途中から、イルマ王子の姿は見当たらなかった。
弟王子たちがそっと、長兄を見ながら囁き合う。
「今はイルマどころではないでしょう。時々、アレイド兄上にこの国をお任せしても大丈夫なのかと心配ですよ」
「そのために俺たちがいるのだろう。お前もうろうろしていないで、国の為に働け!」
「心外ですね! うろうろしていたことが国の為だったんですからね!!」
二番目と三番目の王子が口汚く言い争っていたところに、王女の声が響き渡った。
「イルマ! しっかりやるのですよ!!」
三人の王子はぎょっとして、サリア王女の叫んだ先を見た。
馬車の御者の一人が、小さく手を振っている。
シェンバー王子は、馬車に乗り込むところだった。一瞬、不思議そうに首を傾げる。その目には、日差しを避けるための布が巻かれていた。
「え、あ、あれは⋯⋯」
白馬に乗って付き従う護衛にも、侍従にも、どこかで見た者たちがいた。
「えええー⋯⋯」
王子たちの口から、情けない声が漏れた。
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