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9.明日
長く留守にしていた第2王子が、ようやく帰国した。さらには失明している。
この事実は、スターディアの王宮を大きく揺るがした。
嘆きの声に怒りの声。
王子の境遇に心を寄せるよりも、国としての損失だと叫ぶ声の方が大きかった。
フィスタの責任を問う声も上がったが、シェンバー王子が強引にねじ伏せた。王子は、事の真相を決して明かそうとはしなかった。
「失明の原因は不明。留学続行は無理とあきらめて帰国した」
それ以外は、沈黙を貫いた。
ぼくが何か言おうものなら「今すぐフィスタに叩き返す」の一言だけ。
そもそも、王子が国王や重臣たちと話し合う間、ぼくたちは部屋に軟禁状態だった。
扉を開ければ、シェンバー王子付きの近衛第二部隊が睨みを利かせている。
ぼくたちのあずかり知らぬところで話は進み、半月もすると、王子と共に南の離宮に送られた。
離宮はスターディアでも風光明媚な土地にあり、先代の王妃がこよなく愛したことで知られている。
「体のいい厄介払いと言う奴でしょうか」
「そうだろうね。表向きはゆっくり静養ってことらしいけど。でも、このまま王宮にいるよりはよさそう」
王子とレイと、ぼくたち三人に近衛が数名。
少なすぎないかと問われれば、王子はそれ以上は必要ないと返す。
「離宮には元々働いている者たちがいる。連れていくのは、これで十分だ」
「近衛たちは、もっと付いてきたがっていたんですよ」
レイがこっそり教えてくれる。
王子は結構、人気があるんだな。
宮殿は、白を基調として美しく開放的な造りだった。
花々が多いのだ。庭のあちこちに木や花が植えられていて、椅子も多く配置されている。
清水が湧く泉もあった。女神の気配が感じられて、温かい気持ちになる。
王子の部屋は一階だ。階段を使うのは負担が大きいと、光が入り庭にも出やすい部屋が用意された。
大きく窓を開け放てば、庭からよく風が通る。
柔らかな絹を纏って長椅子にくつろぐ王子の姿は、さながら一枚の絵のようだった。
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