9.明日

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「シェンバー王子、ここはとても綺麗なところです。冬とは思えないぐらい、庭にはたくさんの花が咲いています」  ぼくは、窓辺まで歩いて外を見た。丈の高い花々が勢いよく茎を伸ばし、淡い紫の花を次々に咲かせている。 「ここはスターディアでも温暖な土地だ。冬は暖かく夏は涼しい。子どもの頃は、兄たちとよく来たものだ」  懐かしい思い出を語る顔は優しかった。  スターディアに来てから、初めて見る笑顔に嬉しくなる。  ぼくは、目に映るものを片端から王子に話した。  王子がふと、ため息をつく。 「貴方は全く無謀なことばかりなさる。ようやく女神の許から戻り、これから本当に自由に生きていくことができるのに」 「自由に生きる、なんて今まで考えたことがなかった」 「殿下?」 「未来(さき)がある、なんて思ったことがなかったから」 「⋯⋯私と結婚する気はあったのに?」  ぼくはシェンバー王子を見て、ちょっと目を伏せた。  申し訳ない気持ちでいっぱいになる。 「結婚は、相手が節操無しの王子だって聞いたから承知したんだ」 「は?」 「ぼくがいなくなっても、すぐに次の人が見つけられると思って」  ひどい話だと思う。  いくら王子の評判が悪くたって、相手の気持ちを全く考えていなかった。 「殿下、ちょっと、ここへいらしてください」  ぽんぽん、と王子は絹張りの長椅子を軽く手で叩く。  ぼくは言われるがままに王子の前まで歩いて、隣に座った。 「確かに私の評判は最悪でした。でも、貴方が来るのを楽しみにしていたと言ったでしょう?」 「うん」  王子は、いきなりぼくの顎を長い指で捉えた。 「私は、嬉しかったんですよ。貴方が承知してくれたと聞いて」  見惚れるような美貌が目の前にある。 「貴方のことが好きです」 「は? え? ⋯⋯ええ!?」  言われた言葉が、頭の中で明確な言葉にならない。  ⋯⋯いま、今、なんて?  瞬きする間に、唇と唇が重なった。
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