5965人が本棚に入れています
本棚に追加
「シェンバー王子、ここはとても綺麗なところです。冬とは思えないぐらい、庭にはたくさんの花が咲いています」
ぼくは、窓辺まで歩いて外を見た。丈の高い花々が勢いよく茎を伸ばし、淡い紫の花を次々に咲かせている。
「ここはスターディアでも温暖な土地だ。冬は暖かく夏は涼しい。子どもの頃は、兄たちとよく来たものだ」
懐かしい思い出を語る顔は優しかった。
スターディアに来てから、初めて見る笑顔に嬉しくなる。
ぼくは、目に映るものを片端から王子に話した。
王子がふと、ため息をつく。
「貴方は全く無謀なことばかりなさる。ようやく女神の許から戻り、これから本当に自由に生きていくことができるのに」
「自由に生きる、なんて今まで考えたことがなかった」
「殿下?」
「未来がある、なんて思ったことがなかったから」
「⋯⋯私と結婚する気はあったのに?」
ぼくはシェンバー王子を見て、ちょっと目を伏せた。
申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「結婚は、相手が節操無しの王子だって聞いたから承知したんだ」
「は?」
「ぼくがいなくなっても、すぐに次の人が見つけられると思って」
ひどい話だと思う。
いくら王子の評判が悪くたって、相手の気持ちを全く考えていなかった。
「殿下、ちょっと、ここへいらしてください」
ぽんぽん、と王子は絹張りの長椅子を軽く手で叩く。
ぼくは言われるがままに王子の前まで歩いて、隣に座った。
「確かに私の評判は最悪でした。でも、貴方が来るのを楽しみにしていたと言ったでしょう?」
「うん」
王子は、いきなりぼくの顎を長い指で捉えた。
「私は、嬉しかったんですよ。貴方が承知してくれたと聞いて」
見惚れるような美貌が目の前にある。
「貴方のことが好きです」
「は? え? ⋯⋯ええ!?」
言われた言葉が、頭の中で明確な言葉にならない。
⋯⋯いま、今、なんて?
瞬きする間に、唇と唇が重なった。
最初のコメントを投稿しよう!