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「ん? ⋯⋯は? あ⋯⋯ん、んっ」
息を吸おうとして、唇の間から柔らかな舌が入り込む。舌と舌が絡み合って、口の端から唾液が溢れた。
口の中を好き勝手に舐めまわされて、体の力が抜ける。
ぐったりとした体で、為す術もなく抱かれるままのぼくに、王子は言った。
「⋯⋯え? こんなに簡単に? ちょ、ちょっと、殿下!?」
目が見えないくせに、この流れるような動作は何だ?
涙目になって呟くぼくに、今度は王子が黙り込む。
「えっと、それはまあ、色々⋯⋯」
取り成すように、ぼくの髪をそっと撫でる。
「貴方がこんなに何もご存知ないとは。いえ、馬鹿にしてるわけじゃありませんよ。この目のことは、気になさらなくていいのです。貴方が別に、私を何とも思ってないことはよく分かっています」
王子は、ぼくの体を支えながら続けた。
「⋯⋯やはり、国にお帰りになるべきです。貴方にとって私は、ただの罪悪感の対象でしかない」
──大臣どもが言うのです。シェンバー殿下、何とおいたわしい。もはや他国とは縁が結べそうにありません。今のフィスタとのご縁を大切にいたしましょうと。
一年などと言わず、早く帰らないと本当に帰れなくなります。
貴方は、こんな腐った国にいるべきではない。
ぼくが首を振ると、王子はもう何も言わなかった。
王子はそれから毎日、朝の女神への祈りと、日々の食事の時間をぼくと一緒に過ごした。
身の回りの世話のほとんどはレイが行っている。自然に、話し相手や散歩がぼくの役割になった。
毎日、庭の花が咲いたことや、どんな鳥が来るかを話した。空の色、雲の様子。散歩の時は、腕を掴んでもらって一緒に歩く。王子が読みたいと言った本を代わりに読むこともある。
王子は、ぼくの話をいつも静かに聞いている。
途中で口を挟むことはなく、聞き終わってから自分の思うことを話すのだ。
何だか、ぼくばかり話している気がする。
⋯⋯王子は、楽しいのだろうか。
ただの罪悪感。
そう言われた言葉が、ずっと耳の奥に残っている。
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