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ある時、近隣の貴族たちが挨拶にやってきた。
シェンバー王子が、応対するのは自分だけでいいと言うので部屋にいた。
窓を開けると賑やかな話し声が聞こえてくる。
庭の四阿にいる人々の姿が見えた。
恰幅のいい貴族たち。側にいるのは、その子息や令嬢たちだろう。
王子の隣で鈴を鳴らすような声がする。王子が微笑み、それを見てさらに華やいだ声が続く。
見るともなしに眺めていると、どんどん気分が沈んでいく。
自室のベッドに寝転がった。
「どうなさったんです? イルマ様」
「何でもない。セツ、今日はもう、夕食はいらない」
どうせ、あの貴族たちは夕食も共にするのだろう。料理人たちが何日も前から張り切っていた。
「どこか、お加減が悪いのですか」
心配してくれるセツに首を振り、窓を閉めてくれるように頼む。
横になって目を閉じると、いつのまにか眠ってしまった。
夕闇が降りた気配がする。
うとうととまどろんでいると、誰かが、そっと近寄ってくる。
ひそひそと囁く声。
⋯⋯だれ?セツ?
汗ばんだ額に、冷たい指が当たるのが気持ちよかった。
⋯⋯サフィード?
窓が少しだけ開けられ、空気が入れ替えられる。
ぼくはもう一度、眠りに落ちた。
朝になっても、体がだるくて起き上がれなかった。珍しく風邪をひいたようだ。
仕方なく、ベッドで寝ていた。
「心配してらっしゃいますよ」
「誰が?」
「シェンバー王子です」
ぼくの怪訝な表情に、セツが気の毒そうな顔をする。
「イルマ様が昨夜も食事をとらず、今朝もお出ましにならないので大層気にかけておいでです」
「ただの風邪だと思うから、大丈夫だよ。今日は寝てるって伝えて」
喉が痛い、と言うと、サフィードがマウロの実を漬けた花の蜜を持ってきてくれた。
セツが湯に溶いて渡してくれる。
体を起こして、少しずつ口に含んだ。
「サフィー、いつもこれを持ってきてくれるね」
「昔から、殿下がお好きでしたので」
「ありがとう、美味しい」
騎士の微笑みは、ゆっくりと心を温めていく。
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