9.明日

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 ある時、近隣の貴族たちが挨拶にやってきた。  シェンバー王子が、応対するのは自分だけでいいと言うので部屋にいた。  窓を開けると賑やかな話し声が聞こえてくる。  庭の四阿(あずまや)にいる人々の姿が見えた。  恰幅のいい貴族たち。側にいるのは、その子息や令嬢たちだろう。  王子の隣で鈴を鳴らすような声がする。王子が微笑み、それを見てさらに華やいだ声が続く。  見るともなしに眺めていると、どんどん気分が沈んでいく。  自室のベッドに寝転がった。 「どうなさったんです? イルマ様」 「何でもない。セツ、今日はもう、夕食はいらない」  どうせ、あの貴族たちは夕食も共にするのだろう。料理人たちが何日も前から張り切っていた。 「どこか、お加減が悪いのですか」  心配してくれるセツに首を振り、窓を閉めてくれるように頼む。  横になって目を閉じると、いつのまにか眠ってしまった。  夕闇が降りた気配がする。  うとうととまどろんでいると、誰かが、そっと近寄ってくる。  ひそひそと囁く声。  ⋯⋯だれ?セツ?  汗ばんだ額に、冷たい指が当たるのが気持ちよかった。  ⋯⋯サフィード?  窓が少しだけ開けられ、空気が入れ替えられる。  ぼくはもう一度、眠りに落ちた。  朝になっても、体がだるくて起き上がれなかった。珍しく風邪をひいたようだ。  仕方なく、ベッドで寝ていた。 「心配してらっしゃいますよ」 「誰が?」 「シェンバー王子です」  ぼくの怪訝な表情に、セツが気の毒そうな顔をする。 「イルマ様が昨夜も食事をとらず、今朝もお出ましにならないので大層気にかけておいでです」 「ただの風邪だと思うから、大丈夫だよ。今日は寝てるって伝えて」  喉が痛い、と言うと、サフィードがマウロの実を漬けた花の蜜を持ってきてくれた。  セツが湯に溶いて渡してくれる。  体を起こして、少しずつ口に含んだ。 「サフィー、いつもこれを持ってきてくれるね」 「昔から、殿下がお好きでしたので」 「ありがとう、美味しい」  騎士の微笑みは、ゆっくりと心を温めていく。
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