9.明日

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「⋯⋯もう、国に帰った方がいいだろうか」 「殿下?」 「ぼくは、何の役に立つっていうんだろう。これは、ただの自己満足だ。王子には罪悪感でここにいるだけだと言われた。サフィーだって、ぼくに付いてこんなところまで来てしまって」  思わず呟くと、サフィードは言った。 「⋯⋯例え罪悪感からでも、殿下は王子の役にたちたいと思っておいででしょう? 愛情とは、自己満足が大きいと思います。私が殿下のお側にいることも同じではないかと」 「サフィー?」 「忠節とは何なのかと考える時があります。私が忠誠を捧げるのは国家ではない、殿下にです。こんな私は騎士として失格でしょう。でも、この生き方しか出来そうもありません」 「サフィー⋯⋯」 「お心のままに、お進みください」  サフィードの瞳は、どこまでも深い優しさと愛情を湛えている。ぼくは返す言葉を持たなかった。  扉が叩かれ、セツが取り次ぎに出た。  レイを伴って、シェンバー王子が入ってくる。 「王子? どうして?」  ぼくの部屋は二階なので、階段を上がらなければならない。王子が部屋に来ることは今までなかったのに。 「熱を出されたと聞いたので、様子を見に」 「大したことないんだ。ちょっとだるくて喉が痛いだけ。でも、サフィードが持ってきてくれたマウロの蜜漬けがあるから大丈夫」 「⋯⋯そうですか」  セツがベッド脇に椅子を用意する。腰かけた王子が手を伸ばして、ぼくの額に触れた。あれ、この感触。  冷たい指が、昨夜を思い出させる。 「ねえ、王子。もしかして昨夜、ぼくの部屋に来た?」 「⋯⋯心配だったので」 「あれは、サフィードじゃなかったんだ⋯⋯」  王子の表情が曇る。 「まだ少し熱い」 「王子にうつったら困るから、触らない方がいいよ」 「うつりませんよ。これでも、殿下よりは鍛えていますから」  思わずむっとして黙ると、王子が笑った。 「⋯⋯王子、昨日はもっと楽しそうだったのに」  思わず、余計なことを言ってしまう。 「何がですか?」 「庭で、楽しそうに笑っていた」 「庭で?」 「⋯⋯うん。窓を開けたら、見えたんだ。王子は、いつもよりずっと楽しそうだった」  ──ぼくと二人だけの時よりも。 「本当に、貴方は全くわかってない」  
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