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王子の声に、苛立つ響きが混じる。
時々、こんなことがある。何を間違えたのかはよくわからないが、嫌な思いをさせている。
ぼくは泣きたくなった。
いつのまにか、セツとレイ、サフィードは続き部屋に控えている。
二人だけなのが、気まずさに拍車をかける。
「⋯⋯ごめんなさい」
うつむけば、涙がこぼれた。
王子が、ぼくの様子が変わったのに気づく。
「どうも、貴方の前だと調子が狂う。泣かせたいわけではないのに。⋯⋯心がなくても、笑いかければ彼らは喜ぶ。貴方と一緒の時と比べられるわけもない。いつだって、貴方の言葉を一言も聞き漏らすまいとしているのに」
王子は静かに言った。
「人は、我が儘なものですね。自分の行動に後悔なんてしていない。それなのに⋯⋯」
ぼくは顔を上げて、王子を見た。
美しい顔が、切なげにぼくを見返す。
王子は、ぼくに向かって腕を伸ばす。確かめるように、指が頬の輪郭をたどる。
「貴方に出会わなければよかったと思います」
「王子?」
「黄金の瞳なんて、求めなければよかった」
「⋯⋯」
「本当に、いらないのですよ。⋯⋯この目が見えないことを、後悔する心なんて」
ぼくの頬を、王子の手が優しく撫でた。
「私はね、殿下。女神に一つだけ、願いがあるのです」
「もう一度だけでいい。あなたの笑った顔が見たい」
「⋯⋯どうして?」
「貴方と過ごして、以前より正直になったからでしょうか」
王子の口許に微笑みが浮かぶ。
「楽しそうに話す声を聞いていると、つい我が儘を言いたくなるのです」
両手を伸ばすと、黄金の髪が手に触れる。
さらさらとした髪を昔、馬のたてがみと間違えたことがあった。
王子の頬を両手で包んで、思いきり顔を近づける。
例えぼくの姿が真に映ることはなくても、銀色の瞳はぼくの姿を捉えている。
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