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果たして、イルマ王子はセツに言った。
「ごめん。なんだかちょっと眠くて。少し横になるね。おやすみなさい」
萎れた王子は、まだ日が高いうちから寝室に籠もってしまった。
シェンバー王子の部屋には、セツが呼びつけられていた。
「風邪じゃありませんよ。もう熱はないし、元々が健康そのものの御方なんですから」
「しかし、昼間から眠ることなんて今までなかったはずだ。医師を呼んだ方がいいんじゃないだろうか。朝だって、挨拶しただけで走って行ってしまった」
──案外、心配性なんだな。いや、相手がイルマ様だからなのか⋯⋯。
離宮に来て少ししてから、シェンバー王子とイルマ王子の仲は急速に深まっていった。
おや、と思った時にはお互いを名で呼び合っていた。
しかし、一定の距離は保ったままだ。
「どうして、イルマ様は走っていかれたんでしょう? シェンバー殿下、一体何をなさったんですか?」
「⋯⋯何もしていない」
「本当に?」
「いいかげんにしてくれ、セツ。今の私に、何ができると言うんだ」
王子なら盲目の状態でも色々できそうな気がします、と言うのは止めた。
侍従は出過ぎた真似をしてはいけない。
「イルマ様の様子がおかしくなったのはちょうど3日前からだと思います。あの日は確か⋯⋯書庫に行かれたはず」
「そういえば、何冊か本を選んで持ってきてくれたが、気もそぞろな感じだった」
イルマ王子は時折、シェンバー王子に本を読み聞かせている。南の離宮には大きな書庫があった。夏や冬場の避暑地も兼ねているため、何代にも渡って書籍が所蔵されているのだ。
「シェンバー殿下、差し支えなければお聞きしてもよろしいですか? 本はどのようなものを?」
「穀物史と風土病、大陸における女神の信仰分布図、愛馬の飼い方」
「⋯⋯特に、何事もなさそうですね」
それは、読み聞かせられて楽しいのか?と聞きそうになったが、セツは堪えた。
侍従は出過ぎた真似をしてはいけない。
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