1.秘め事 【惑う】

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 果たして、イルマ王子はセツに言った。 「ごめん。なんだかちょっと眠くて。少し横になるね。おやすみなさい」  萎れた王子は、まだ日が高いうちから寝室に籠もってしまった。  シェンバー王子の部屋には、セツが呼びつけられていた。 「風邪じゃありませんよ。もう熱はないし、元々が健康そのものの御方なんですから」 「しかし、昼間から眠ることなんて今までなかったはずだ。医師を呼んだ方がいいんじゃないだろうか。朝だって、挨拶しただけで走って行ってしまった」  ──案外、心配性なんだな。いや、相手がイルマ様だからなのか⋯⋯。  離宮に来て少ししてから、シェンバー王子とイルマ王子の仲は急速に深まっていった。  おや、と思った時にはお互いを名で呼び合っていた。  しかし、一定の距離は保ったままだ。 「どうして、イルマ様は走っていかれたんでしょう? シェンバー殿下、一体何をなさったんですか?」 「⋯⋯何もしていない」 「本当に?」 「いいかげんにしてくれ、セツ。今の私に、何ができると言うんだ」  王子なら盲目の状態でも色々できそうな気がします、と言うのは止めた。  侍従は出過ぎた真似をしてはいけない。 「イルマ様の様子がおかしくなったのはちょうど3日前からだと思います。あの日は確か⋯⋯書庫に行かれたはず」 「そういえば、何冊か本を選んで持ってきてくれたが、気もそぞろな感じだった」  イルマ王子は時折、シェンバー王子に本を読み聞かせている。南の離宮には大きな書庫があった。夏や冬場の避暑地も兼ねているため、何代にも渡って書籍が所蔵されているのだ。 「シェンバー殿下、差し支えなければお聞きしてもよろしいですか? 本はどのようなものを?」 「穀物史と風土病、大陸における女神の信仰分布図、愛馬の飼い方」 「⋯⋯特に、何事もなさそうですね」  それは、読み聞かせられて楽しいのか?と聞きそうになったが、セツは堪えた。  侍従は出過ぎた真似をしてはいけない。
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