1.秘め事 【惑う】

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 イルマ王子は、夕食時にようやく顔を出した。  小鳥がついばむ程度にしか、食事が進まない。  いつもは自分からよく話す王子が黙り込んでいると、食卓は静まり返っている。  シェンバー王子が話しかけても、相槌を打つばかりで話は弾まなかった。  夕食後にシェンバー王子は、イルマ王子を部屋に呼んだ。 「⋯⋯ここに来て、イルマ」  部屋の入り口に立ったままのイルマに、シェンバーは優しく声をかけた。  おずおずとやってくる気配がする。  しょんぼりと前に立つ小柄な体に手を伸ばす。 「どうした? 何が気になっている?」  髪に触れれば、ぴくりと体が震えた。  黙り込む恋人を、そっと胸の中に抱き込んだ。  柔かい髪、腕の中にすっぽり入るしなやかな体が心地よかった。  イルマはシェンバーの胸に頭を預けながら、ぽつりと言った。 「⋯⋯本を」 「本?」 「読んだんだ⋯⋯」  シェンバーは、イルマを長椅子に座らせて、自分もその隣に座る。  うつむいた頬に指で触れれば、イルマはその指に自分の手を重ねた。  すりすり、と頬をすりよせてくる。  シェンバーの胸は跳ねた。  ──待て。落ち着こう。  平静を装って尋ねる。 「書庫の本だろう。何を読んだ?」 「房中術雑記」 「!!!!!」  シェンバーは、血が逆流するのを感じた。 「⋯⋯日記になってて。閨の中でするあれこれについて、綴ってあった」  その本なら、ずっと昔に読んだことがある。  閨房術で人気を博した本だ。美貌の主人公が、男女問わずたくさんの恋人と華やかな生活を繰り広げる。性遍歴と多様な性技が王宮でも話題になっていたから、誰かが書庫に入れたのだろう。 イルマは、シェンバーの手を握ったまま続けた。 「⋯⋯何か面白い本がないかな、って思って。赤い革表紙で題名がなかったから読み始めたんだけど」  衝撃の内容続きで、頁を繰る手が止まらなくなった。
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