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「は、話もそうなんだけど⋯⋯あんなことやこんなことまでするのか⋯⋯って」
ぷるぷると小刻みに震えているのがわかる。
シェンバーは眩暈がしそうだった。
王族たるもの、幼い頃に結婚相手が決まるのはごく普通のことだ。
フィスタの王子は留学期間があり、結婚年齢が遅い為に婚約まで時間がかかると聞いていた。しかし、閨事は早いうちから教師がつくものではないのか⋯⋯。
「⋯⋯シェ、シェンもああいうのが、好きなのかな」
イルマは絞り出すように言った。
⋯⋯どうしたらいいんだ。
話と現実は違う。しかし、言葉を選ばなければ、ろくなことにならない気がする。
今までにない展開に、黙り込んだのが良くなかったのだろう。
「ご、ごめん! 変なこと言って!!」
イルマが立ち上がる。
「⋯⋯ちょ! 待って、イルマ!!」
扉が音高く開いて、走り去る音がした。
忘れていた。
イルマは人よりも逃げ足が早かったのだ。
以前も目の前で逃げられたり消えたりされたじゃないか。
一人残されて、シェンバーは頭を抱えた。
翌朝の食事も静まり返っていた。
流石に、セツとレイは顔を見合わせた。
イルマが部屋に戻った後、シェンバーから話を聞いたセツは、なるほどと頷いた。
「イルマ様は、そつ無く何でもお出来になるんですけどね。色事だけは、純粋培養されてきたような方なんですよ。末っ子で箱入りって言うんでしょうか。百戦錬磨のシェンバー殿下でも、勝手が違いそうですねえ」
「さり気なく人聞きの悪いことを言わないでほしいんだが。それに、聞いても全然嬉しくないような話だな」
「⋯⋯どなたかに指南を受けておいて欲しかったんですか?」
シェンバーの纏う空気が変わった。
セツは気にも留めず、にっこりと笑った。
「まあ、そういうことでしたら、おまかせください」
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