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2.秘め事 【恋う】※
「イルマ様ー! 新しいお茶を手に入れましたよ!!」
「⋯⋯おちゃ」
ベッドで丸くなっていたイルマ王子は、セツの言葉にふらりと起き上がった。
『小動物には、元気がなくなった時の為に特別なご褒美を用意しておきなさい。何も受け付けなくなっても、それだけは口に出来る、というものは大切だから』
セツは、母から教わった言葉を思い出した。
スターディアで採れる最高級のお茶の葉で、注意深く一杯を淹れる。
茶葉は、シェンバー王子に口入れし、近衛が馬を飛ばして手に入れた苦労の品だ。
「美味し⋯⋯」
手渡されたお茶を、王子はゆっくりと飲み干した。
少しずつ顔色もよくなり、丸まっていた背がぴんと伸びていく。
まるで、萎れた草花に水が与えられるように。
「ありがと、セツ⋯⋯」
「それは、シェンバー殿下からの贈り物です」
「シェンから?」
イルマ王子は、くしゃくしゃの髪の間から丸い目を覗かせて、にっこり笑った。
セツは、心の中でうんうん、と頷く。
これならいけそうだ。
「シェンバー殿下は、イルマ様を心配して取り寄せられたのですよ。元気なお顔を見せて御礼を申し上げましょう」
イルマ王子は、こくんと頷いた。
「それで、ですね」
セツが耳元で囁くと、王子の顔は、たちまち真っ赤になった。
「そそそそそそれは⋯⋯」
「早いうちに礼を尽くすことが大切です。母も常々そう言っておりました」
しばらくして、部屋の中には、か細い悲鳴が響き渡った。
「イルマ、もう起きて大丈夫なのか?」
「う、うん」
「食欲は、まだそんなに無いようだが⋯⋯」
夕食の席に着いたものの、イルマ王子は、ほんの少ししか食べなかった。
昨夜と変わらない様子に、シェンバー王子の心配は募る。
「もう平気。えっと、その、貴重なお茶をありがとう。とても美味しかった」
「気に入ってもらえて良かった。スターディアにも質のいい茶園があるから、今度行ってみようか」
「うん。後で、部屋で一緒にお茶を飲みたいんだけど。⋯⋯いいかな」
「もちろん」
イルマ王子の言葉に、シェンバー王子は花のように微笑んだ。
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