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夕食のあと、少ししてからイルマ王子がシェンバー王子の部屋を訪れた。
レイは二人の前の卓に茶を置くと、部屋を下がる。
いつもと同じように、シェンバー王子は長椅子に腰かけている。
イルマ王子が隣に座れば、ふわりと甘い香りがした。
視力を失っても、全く見えなくなったのとは少し違う。
明るさと暗さを判断することは出来る。
そして、以前より嗅覚は鋭敏になった。
隣に座ったイルマの髪にシェンバーは触れた。
ふわふわした髪は、わずかに湿っていた。
「濡れてる? それに、花の香りがする」
「⋯⋯さっき、湯を浴びたから」
「そうか⋯⋯」
シェンバーが甘い香りのする髪を撫でれば、イルマは肩口にこつんと頭を乗せた。
──可愛いな。
以前は毛を逆立てた猫のようだったのに。
いつのまにか、隣で体を擦り寄せるようになった。
フィスタの王族たちは仲がいい。
末の王子のイルマは、国王夫妻だけでなく兄姉にも可愛がられていた。
そのせいだろうか。一旦心を許すと、気軽に甘えてくる。
そっと髪に口づけると、イルマは顔の向きを変えてシェンバーを見上げた。
イルマの手が、シェンバーの頬に触れた。ほっそりした手はいつも、ほんの少しシェンバーより温かい。その温かさに、シェンバーは自分から擦り寄ってしまいたくなる。
「⋯⋯シェン、大好き」
──小さく呟くこの生き物を、どうしたらいいのだろう。
自分への気持ちを、ただまっすぐに伝えてくる。そのたびに、激しく波打つこの気持ちを、どう伝えたらいいのだろう。
互いの吐息が近づいて、やわらかい感触が唇に触れる。
シェンバーは、唇の合間から舌を忍び込ませた。
自分よりも小ぶりなイルマの舌の上を、ちろちろと嬲っていく。
「⋯⋯んっ、シェン⋯⋯」
イルマの口から甘い声が漏れた。
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