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──セツに色々教わった、と言った。さぞかし大変な思いをしたのだろう。
腕の中で、イルマは小さく息を整える。
「⋯⋯交接は、違和感があるって聞いたんだ。苦しくても我慢だって言われて」
「イルマ、苦しかった?」
「ううん。そんなこと、なかった」
イルマが、ふるふると首を振った。
シェンバーが頷く。
媚薬入りの香油は、スターディアの最高級品だ。痛みを快感に変える。
その昔、初夜で上手くいかなかった国王夫妻が後々まで問題を抱えたことがあった。その反省から開発され、王族の新床には必ず用意される品だった。
「今度は、媚薬なんか無しでしよう」
「⋯⋯うん」
シェンバーは、イルマの唇を、ちろりと舌で舐め上げた。
快感に弱いらしい恋人は、それだけで熱い吐息を漏らす。
体を寄せられて、すぐにまた欲が湧いてくる。
「シェン⋯⋯。もっと」
口づけをねだる声が、たまらなく色っぽかった。
あと何回出来るだろうか。
シェンバーは、思わず自分を叱咤した。このままでは、相手は初めてだと言うのに、抱きつぶしてしまいそうだ。
イルマの笑顔を見たいと思った。
今も、女神の赦しが得られるならと思うことがある。
でも、乱れた姿を実際に目にしたら⋯⋯。自分は、正気でいられるのだろうか。
声や仕草から痴態を感じるだけで堪らないのに。
甘やかしたい。
放したくない。
大事にしたいのに⋯⋯、縛りつけたい。
自分だけにずっと、繋いでおけたらいいのに。
そんな気持ちばかりが胸に渦を巻く。
「シェン、どうしたの?」
「イルマ⋯⋯愛してる」
「⋯⋯ぼくも。ぼくも、シェンを愛してる」
一分の隙もないほど抱きしめ合って、互いの体の温もりを確かめる。
何度も口づけを交わし、微笑みあう。
「ずっと、一緒にいよう」
「うん。⋯⋯約束したよね」
二人だけの秘め事の夜は、静かに静かに更けていく。
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