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髪に触ったり、顔を近づけてみたり。
肌を摺り寄せてくるのは⋯⋯。無意識なんだろうが、困る。
何も身につけずに、抱き合っているのだ。
下半身が思わず反応しそうになるのを、ひたすらに堪えていた。
経験豊富な相手ならまだしも、昨夜初めて肌を合わせたばかりなのだ。
驚かせてはいけない。
細い指先が、ちょんと唇に触れてくる。
確かめるように、すり、と撫でている。
このまま、咥えて食べてしまおうか。
胸の中に、そろりと獣のような情念が動き出す。
☆★☆
シェンバーが、形のいい唇を開く。
イルマの小さな指先を口にしようとした時。
胸に、ぽとんと温かいものが落ちてきた。
「⋯⋯イルマ? なんで、泣いてる?」
やわらかい髪を撫で頬に触れれば、涙が幾筋も伝っていく。
額に口づけを落として優しく尋ねた。
「どうした?」
「⋯⋯れば、よかった」
「え?」
「⋯⋯もっと、たくさん経験があれば、よかった」
シェンバーに衝撃が走った。
小動物は時々、思いもよらぬ攻撃を仕掛けてくる。
──今言われた言葉を、うまく咀嚼して返さなければ。
「そ⋯⋯れは、どういう?」
イルマがシェンバーの胸に頬を寄せた。
「だって、シェンは⋯⋯たくさん⋯⋯知ってるのに。ぼくは、ろくに知識も⋯⋯わ、技も知らないんだ」
イルマの言葉に、いちいち動悸が激しくなる。シェンバーは、自分に強く語りかけた。
──落ち着こう。相手は素直なだけだ。純粋培養されてきたのだ。
「シェ、シェンは、今までもたくさん⋯⋯付き合った人がいるでしょう。そう思ったら⋯⋯」
イルマのふわふわした髪が、しょんぼりと萎れ始めている。
シェンバーは、イルマの体を引き寄せた。イルマの髪からはふわりと花の香りが漂う。
まぶたに、頬に、鼻に。いくつも口づけを落としていく。この気持ちが彼に少しでも伝わるようにと。
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