4.恋情 一夜明けて ※

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 髪に触ったり、顔を近づけてみたり。  肌を摺り寄せてくるのは⋯⋯。無意識なんだろうが、困る。  何も身につけずに、抱き合っているのだ。  下半身が思わず反応しそうになるのを、ひたすらに堪えていた。  経験豊富な相手ならまだしも、昨夜初めて肌を合わせたばかりなのだ。  驚かせてはいけない。  細い指先が、ちょんと唇に触れてくる。  確かめるように、すり、と撫でている。  このまま、咥えて食べてしまおうか。  胸の中に、そろりと獣のような情念が動き出す。  ☆★☆  シェンバーが、形のいい唇を開く。  イルマの小さな指先を口にしようとした時。  胸に、ぽとんと温かいものが落ちてきた。 「⋯⋯イルマ? なんで、泣いてる?」  やわらかい髪を撫で頬に触れれば、涙が幾筋も伝っていく。  額に口づけを落として優しく尋ねた。 「どうした?」 「⋯⋯れば、よかった」 「え?」 「⋯⋯もっと、たくさん経験があれば、よかった」  シェンバーに衝撃が走った。  小動物は時々、思いもよらぬ攻撃を仕掛けてくる。  ──今言われた言葉を、うまく咀嚼して返さなければ。 「そ⋯⋯れは、どういう?」  イルマがシェンバーの胸に頬を寄せた。 「だって、シェンは⋯⋯たくさん⋯⋯知ってるのに。ぼくは、ろくに知識も⋯⋯わ、技も知らないんだ」  イルマの言葉に、いちいち動悸が激しくなる。シェンバーは、自分に強く語りかけた。  ──落ち着こう。相手は素直なだけだ。純粋培養されてきたのだ。 「シェ、シェンは、今までもたくさん⋯⋯付き合った人がいるでしょう。そう思ったら⋯⋯」  イルマのふわふわした髪が、しょんぼりと(しお)れ始めている。  シェンバーは、イルマの体を引き寄せた。イルマの髪からはふわりと花の香りが漂う。  まぶたに、頬に、鼻に。いくつも口づけを落としていく。この気持ちが彼に少しでも伝わるようにと。
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