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「セツ様、いいですか? 私にそんな相手がいるように見えるんですか?」
「⋯⋯。すぐには、思い当たらないんだけど。ただ、レイは優しくて性格もいいし、顔もいいし。仕事も出来る。背だって、とっくに僕を抜かして、これからもっと大きくなりそうだし」
相手がいても、全然不思議じゃない。
少し上を向いてレイの目を見れば、目を合わせたのに、すぐに逸らされた。
何だか傷つく。
「⋯⋯すごく褒められてると思うんですけど、子ども扱いは全然変わらないんですね」
「⋯⋯へ?」
「お会いした時から、これでも、ずいぶん成長したつもりなんですが!!」
「うん? 知ってるよ。一年半近く、一緒に居るんだし」
レイが眉を寄せて、目を細めた。
なんで、今度は拗ねてるんだろう。
見たことがない姿にびっくりして、うまく言葉が出ない。
レイは、きっぱりと言った。
「残念ながら、私に香油を使うような相手はいません!」
「⋯⋯じゃあ、自分で使ってみるしかないかな」
そう呟いた途端に、今度は目を見開いて腕を掴まれた。
「何を仰るんです? 一体誰と使うって言うんです!」
「レイ! 痛い! 痛いって!!」
レイに掴まれた手が痛くて、大きな声が怖い。
⋯⋯いつもと違うレイが怖い。
思わず、ぽろりと涙がこぼれた。
レイは、はっとしたように僕の腕を離す。
「セツ様! な、泣かないで⋯⋯」
「だって⋯⋯」
レイを怖がることも、こんなことで泣き出すことも情けなかった。
ぼろぼろ涙がこぼれて、床を濡らす。
僕はその場にいるのが辛くなって、部屋を飛び出した。
レイの声が聞こえたけれど、それどころじゃなかった。
離宮の広い庭には、大木が何本かある。
一番大きな木の脇に、小さな長椅子が置いてあった。
枝が重なり合っていて、子どもが二人も座れば、ちょうど体が覆われて見えなくなる。
かくれんぼをするのに最適な場所だ。
子ども好きだったと言う先代の王妃殿下が、小さな王子や姫君の為に作られた場所。
隠れるのには最適な場所だった。
⋯⋯少しだけ、お貸しください。
僕は体を丸めて、そこに腰を下ろした。
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