1.あなたに焦がれて

3/4
前へ
/486ページ
次へ
「セツ様、いいですか? 私にそんな相手がいるように見えるんですか?」 「⋯⋯。すぐには、思い当たらないんだけど。ただ、レイは優しくて性格もいいし、顔もいいし。仕事も出来る。背だって、とっくに僕を抜かして、これからもっと大きくなりそうだし」 相手がいても、全然不思議じゃない。  少し上を向いてレイの目を見れば、目を合わせたのに、すぐに逸らされた。  何だか傷つく。 「⋯⋯すごく褒められてると思うんですけど、子ども扱いは全然変わらないんですね」 「⋯⋯へ?」 「お会いした時から、これでも、ずいぶん成長したつもりなんですが!!」 「うん? 知ってるよ。一年半近く、一緒に居るんだし」  レイが眉を寄せて、目を細めた。  なんで、今度は拗ねてるんだろう。  見たことがない姿にびっくりして、うまく言葉が出ない。  レイは、きっぱりと言った。 「残念ながら、私に香油を使うような相手はいません!」 「⋯⋯じゃあ、自分で使ってみるしかないかな」  そう呟いた途端に、今度は目を見開いて腕を掴まれた。 「何を仰るんです? 一体誰と使うって言うんです!」 「レイ! 痛い! 痛いって!!」  レイに掴まれた手が痛くて、大きな声が怖い。  ⋯⋯いつもと違うレイが怖い。  思わず、ぽろりと涙がこぼれた。  レイは、はっとしたように僕の腕を離す。 「セツ様! な、泣かないで⋯⋯」 「だって⋯⋯」  レイを怖がることも、こんなことで泣き出すことも情けなかった。  ぼろぼろ涙がこぼれて、床を濡らす。  僕はその場にいるのが辛くなって、部屋を飛び出した。  レイの声が聞こえたけれど、それどころじゃなかった。  離宮の広い庭には、大木が何本かある。  一番大きな木の脇に、小さな長椅子が置いてあった。  枝が重なり合っていて、子どもが二人も座れば、ちょうど体が覆われて見えなくなる。  かくれんぼをするのに最適な場所だ。  子ども好きだったと言う先代の王妃殿下が、小さな王子や姫君の為に作られた場所。  隠れるのには最適な場所だった。  ⋯⋯少しだけ、お貸しください。  僕は体を丸めて、そこに腰を下ろした。
/486ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5965人が本棚に入れています
本棚に追加