1.あなたに焦がれて

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 イルマ様が戻られてからは、ほとんど泣くことはなかったのに。  『好きなだけ、泣いたらいいですよ』  イルマ様がお留守の間、レイはいつも、そう言って励ましてくれた。  ちょっとだけ⋯⋯。  久々の涙は、思ったよりもずっとたくさん溢れてきた。  僕は、いつのまにか泣き疲れて眠っていた。  目覚めた時には、辺りはもう日が落ちている。 「しまった! 仕事!!」  イルマ様は、どうしていらっしゃるだろう。  何も言わずにお側を離れていた。  慌てて立ち上がろうとすれば、目の前の木が動いた。 「ひっ!」 「セツ様!!」  目の前にレイがいた。レイは青い顔をして、汗びっしょりだ。 「こ、こんなところに⋯⋯!」 「⋯⋯え? ごめん。眠ってて」  レイが、僕の頬に手を伸ばしてきた。  涙の痕を指がたどる。  泣いていたのは僕なのに、レイは自分が苦しそうな顔をする。 「すみません。私のせいで⋯⋯」 「⋯⋯レイ」  恥ずかしい。泣いたことも、レイを怖がったことも。 「!?」  後ずさろうとすれば、体が、いきなり温かいもので包まれていた。  少し硬い髪の感触、汗のにおい。いつのまにか、僕よりずっと大きくなった体。 「レイ、え⋯⋯」 「あんなこと仰るから」  レイの体が、僕をぎゅっと強く抱きしめる。  厚い胸に抱き込まれて、息が苦しくなる。 「誰とそんなことするのかって、かっとして⋯⋯。セツ様は、いつだって綺麗で、優しくて。大人だけど、私よりずっと⋯⋯」  僕は、レイの胸をドンドン、と強く叩いた。 「レイ、くるし⋯⋯」  レイが、はっとしたように体を離す。  ごほっと咳をしながら、レイを見る。 「今だって、レイより大人だよ?」 「⋯⋯たった三つだけでしょう!」  レイが、恨めし気に僕に視線を投げる。  僕の頬をそっと撫でて、一瞬目を閉じた。  目を開けると、レイは僕に向かってはっきりと言った。 「セツ様、貴方(あなた)が好きです」
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