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イルマ様が戻られてからは、ほとんど泣くことはなかったのに。
『好きなだけ、泣いたらいいですよ』
イルマ様がお留守の間、レイはいつも、そう言って励ましてくれた。
ちょっとだけ⋯⋯。
久々の涙は、思ったよりもずっとたくさん溢れてきた。
僕は、いつのまにか泣き疲れて眠っていた。
目覚めた時には、辺りはもう日が落ちている。
「しまった! 仕事!!」
イルマ様は、どうしていらっしゃるだろう。
何も言わずにお側を離れていた。
慌てて立ち上がろうとすれば、目の前の木が動いた。
「ひっ!」
「セツ様!!」
目の前にレイがいた。レイは青い顔をして、汗びっしょりだ。
「こ、こんなところに⋯⋯!」
「⋯⋯え? ごめん。眠ってて」
レイが、僕の頬に手を伸ばしてきた。
涙の痕を指がたどる。
泣いていたのは僕なのに、レイは自分が苦しそうな顔をする。
「すみません。私のせいで⋯⋯」
「⋯⋯レイ」
恥ずかしい。泣いたことも、レイを怖がったことも。
「!?」
後ずさろうとすれば、体が、いきなり温かいもので包まれていた。
少し硬い髪の感触、汗のにおい。いつのまにか、僕よりずっと大きくなった体。
「レイ、え⋯⋯」
「あんなこと仰るから」
レイの体が、僕をぎゅっと強く抱きしめる。
厚い胸に抱き込まれて、息が苦しくなる。
「誰とそんなことするのかって、かっとして⋯⋯。セツ様は、いつだって綺麗で、優しくて。大人だけど、私よりずっと⋯⋯」
僕は、レイの胸をドンドン、と強く叩いた。
「レイ、くるし⋯⋯」
レイが、はっとしたように体を離す。
ごほっと咳をしながら、レイを見る。
「今だって、レイより大人だよ?」
「⋯⋯たった三つだけでしょう!」
レイが、恨めし気に僕に視線を投げる。
僕の頬をそっと撫でて、一瞬目を閉じた。
目を開けると、レイは僕に向かってはっきりと言った。
「セツ様、貴方が好きです」
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