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2.あなたに溺れて ※
「好き?」
「はい、セツ様をお慕い申し上げております」
僕は、呆然とレイを見た。
少年から青年へと移ろうとしている凛々しい顔。
レイの顔はこんなだっただろうか。
毎日のように見ている顔だ。でも、何かが違う。⋯⋯何が?
はっと気づいた。
──瞳だ。
レイの瞳は、シェンバー王子がイルマ様を見る時の瞳と同じだ。
優しさと切なさと、それだけじゃない。
相手を飲みこみ、焼き尽くしてしまいそうな。
「レイ、僕は⋯⋯」
「ええ、わかっています。セツ様は、私を弟ぐらいにしか思ってらっしゃらないでしょう?」
レイは、悔しそうに目を伏せた。
「⋯⋯」
「スターディアからフィスタに行った時、私はまだ14でした。侍従の中で一番語学が出来るからと、シェンバー殿下に指名されたのです。異国に行くのは初めてで、ずっと緊張していました」
ああ、そうだった。シェンバー王子は、祖国から侍従をレイしか連れて来なかった。あとは近衛が二名だけ。あどけなさの残る侍従は、一生懸命フィスタに慣れようとしていた。
「忘れもしません。フィスタで、一カ月が経とうとした時のことです」
☆★☆
15歳の誕生日だった。
スターディアの王宮に上がってからも、今までは実家から贈り物が届いた。
侍従仲間が皆で祝ってくれたこともある。
けれど、フィスタに来て間もない誕生日は、一人きり。
シェンバー王子の遣いを済ませて、部屋に帰ろうとしていた。
王宮の廊下の窓から、青空が見える。
──あの向こうに、スターディアがあるんだ⋯⋯。
弱気になっていたのかもしれない。涙が浮かんで、慌てて手の平でこすった。
ぽんぽん、と頭が撫でられた。
「これ、食べる?」
「⋯⋯セツ様」
輝く碧青の瞳が覗き込んできた。
目が合うと、少女かと思うほど綺麗な顔がある。大きな瞳に桜色の唇。
さらさらした肩までの髪が揺れて、にっこり笑う。
見惚れているうちに、手の上に、小さな包みが渡された。
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