2.あなたに溺れて ※

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「味見用にもらったんだけど、あげる」 「え、え! これ?」 「イルマ殿下のお供で孤児院に持っていくお菓子なんだ。スターディアにはないかなあ。親が子どもの為にお菓子を焼く日」 「⋯⋯ないです。子どもの成長を祝う日はあるけど」 「まあ、似たようなものか。じゃあ、レイにもお祝いだよ」  ふふふ、と悪戯っ子のように笑って、まだ子どもだからね、と言った。  他の侍従には内緒だよ、と細い指を口元に当てる。  侍従たちの間では、セツ様は憧れの人だった。  涙なんか、とっくに引っ込んでいた。  セツ様が、自分にくださった。そう思ったら顔が熱くなった。  手の中の包みから甘い香りがする。  セツ様は、大きな包みを抱えて行ってしまった。  自分の胸の動悸だけが、いつまでもおさまらなかった。  ☆★☆ 「そんなこと、あったっけ⋯⋯」  シェンバー王子が無理やり、孤児院についてきたことなら覚えている。  あの日は一日中忙しくて、レイに菓子を渡したことは記憶になかった。 「嬉しかったんです。いただいた菓子を、ずっと食べられずに持っていました」 「⋯⋯そうだったんだ」  異国に来たばかりで寂しかったのだろう。  レイが、そんな切ない思いをしていただなんて。 「あの頃からずっと、セツ様は優しかった」  レイが懐かしそうに笑う。  自分が覚えてもいないことで感謝されて、なんだか落ち着かない。 「ごめん、全然覚えてなくて。僕は、いつだって自分の仕事のことばかりだ」 「⋯⋯私には、大切な思い出です」  レイが僕の手をとる。  騎士たちがするように、僕の手の甲に口づけた。  思わず、びくりと体が震える。  ⋯⋯子どもだと思っていたのに、こんなことをするようになるなんて。  視線が合った。 「嫌ですか?」 「⋯⋯い、嫌じゃないけど!」  あっと思った時には、もう一度抱きしめられていた。  熱の籠もった声がする。 「貴方を、(あきら)めなくてもいいですか」
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