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【シンデレラのかぼちゃごはんオムライス】②
気づくと、高校入試の合格発表当日の朝だった。そんなはずは普通はないのだが、虹色ドリンクの効果だろうか? 実際に自分が体験した高校入試の合格発表の自宅と全く同じだったから、よくわかる。それは、第一希望の共学の高校の発表日だ。第二希望の女子高校に進学することになる、苦い思い出の合格発表の当日だ。これから発表をネットで確認しようとしている時間帯だ。
いつもと何もかわらない日常がそこにあるが、この後、人生初の不合格という烙印を押された日だ。15歳にして、はじめての他人からの評価。それは、この高校に来ないでくださいという悲しい評価だった。人生の烙印を押されたような気がしていた。それは、失格という名前の烙印だった。それから、その烙印を背負って生きてきた。だから、もしも合格していたら、歓迎を受けていたら価値観、人生、全てがきっと変わると思っていたのだ。
きっとこの第一志望の進学校でもあり、文武両道をかかげる第一高校で、素敵な彼氏を作って、頭のいい友達に囲まれて過ごしていたはずなのだ。
そして、発表の瞬間だった。
「合格だって!!」
一緒に見ていた母親が急いで、父に連絡をはじめた。そして、祖父母や親せきに喜びの報告をしている。まず、この時点で、だいぶ現実と「もしも」の世界は違うようだ。
喜びに震えた。たとえ夢だとしても、夢にまで見た合格を手に入れたという喜びだ。性格はもっと前向きになれるのだろうか? 明るくなることができるのだろうか? この合格がきっと人生を変えてくれると信じて疑わなかった。
この世界は早送りができるらしい。気づくと、あっという間に入学式当日で、喉から手が出るほど着てみたかった第一高校の制服を着ていた。憧れのブレザー。憧れのスカート。別人になったみたいに、誇らしげに歩く。通学している女子高校とは全然違う。男子が6割だから、女子よりも多いし、顔面偏差値も高いと評判の第一高校。親も喜ぶ市内一番の進学校だ。私の鼻はだいぶ高くなっていたように思う。女子高だから彼氏ができないけれど、この高校ならばきっと恋愛ができるだろう。どんな素敵な出会いがあるのだろう? 胸を躍らせて入学式に臨んだ。好みの顔立ちの男子生徒も同じクラスにいた。顔はアイドルにいそうな顔立ちだし、スポーツをやっていたらしく、さわやかそうだ。
友達もできた。でも、ここの生徒はみんな成績優秀なので、そういった人の集まりなのだ。だから、成績がちょっといいだけの人は成績の底辺になるという事実を知ることになった。会話をしていると、プライドの高い人が多く、お金をかけて、習い事をしてきた人が多かった。家もお金持ちだとか、親の職業は年収のいい開業医だとか、弁護士だとか、会計士だとか、なんとなくみんなが自分のプライドを高く掲げている人ばかりだった。今通学している女子高のほうが、ずっと気楽だった。
勉強勉強で、ここの毎日は大変だった。地頭がいい天才肌は、勉強をそんなにしなくても、1を聞いて10を知るタイプばかりで、テストの成績は上位だ。しかし、地頭の良くない私のような生徒は、ついていくのに精一杯で、いくら勉強しても上位には程遠い。どんなにがんばっても底辺なのだ。人生は不平等の連続だ。毎日が苦しい。恋愛どころでもなく、親は成績が悪い私に対して、推薦で大学に行くこともできないと焦りをあらわにした。
自分自身が一番焦っていた。ついていくのが精一杯。赤点ばかり。小テストも周りは100点ばかり。どうしたらいいの? 私って頭が悪いの? 勉強なんて大嫌いだ。大学に行きたくない!! そう思っていた。今の私よりも、辛い毎日だった。
♢♢♢
「もしもの世界はいかがでしたか? 必ずしもシンデレラストーリーが待っているわけではないということがおわかりいただけたでしょうか? ただ王子様を待っているだけでは何もはじまらないということです。あなたのねがいは何ですか?」
お兄さんの声が聞こえた。ゆっくり瞳を開けてみる。ここは先程の不思議なレストラン?
「ひとつお願いがあります。私をここで雇ってください!! 今のほうがいいです。今を否定することって自分から逃げているみたいだから、否定はしません」
私の必死の懇願にお兄さんは少しびっくりしているみたいな顔をした。そして、にこりとほほ笑む。
「こちらはかまいませんが……」
「ここの味、とっても気に入りました。過去に戻るより、今、何かを成し得たいと思いました」
「面白い方ですね。じゃあ好きな時にボランティアとして手伝いに来てください。うちのメニューを毎回お礼として出しますよ」
やっぱりお兄さんは優しい。
「僕の名前はアサトです。18歳です」
「あたしの名前はまひる。10歳だよ。よろしくね。ボランティアのおねえさん」
「こちらこそ、よろしくお願いします。時野夢香と申します」
これからお世話になるであろう2人に深々とお辞儀をした。
「これ、うけとってください。幻のレストランに入るにはこのネックレスの宝石が必要になります。これを持って入りたいと願うとこの店は現れます」
アサトさんは、自分がつけていた赤い宝石がついたネックレスを私にくれた。高価な品物をもらってもいいのか、少し戸惑う。
「これがないと入ることができないのですか?」
「幻のレストランは、時の世界と日本世界の間にあるので、普通の人間は入ろうと思っても見つけることができません。しかし、これがあれば行きたいと思った時に行くことが可能となります」
この不思議なレストランでお手伝いをすることが決まったのだ。相手の素性も何もわからないというのに。素敵な恋の予感とまだ見ぬ素敵なお客様たちとの未知なる遭遇を感じながら、過去を振り返ることなく、新たな一歩を踏み出したのだ。
「ごちそうさまでした!!」
私は精一杯のお礼の気持ちを込めてごちそうさまと言って、お店を後にした。
「まひる、あの子は本当は今日、初恋の人と再会する予定があったのに、初恋の記憶を消すなんてもったいないことをしたように思います」
「おにーちゃんってば、夢香に説明しないで、もしもを体験させちゃうなんてさ。ちょっとひどくない? 偶然の再会で初彼氏になるなんて、普通思わないじゃん」
「夢香は時の国に必要な日本人だからね。彼氏ができて、彼女がこちらに来てくれなくなると我々が困るんだよ」
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