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寒さでかじかんだ手を擦り合わせながら、私は教室に入った。
やっぱり今日も先に来てる。
窓際の、一番後ろの席に、見慣れた読書姿を目の端に捉えた。
読書の邪魔にならないよう、こっそりと自分の席に向かう。
リュックを下ろして、マフラーとコートを脱いでいると、本をパタンと閉じた少女が話しかけてきた。
「おはよう、あやめ」
私は挨拶を返しつつ、教室の電気をつけた。
「ありがとう」
「目、悪くなるよ」
「ごめん、つい夢中になっちゃって」
少女は小さく舌を出した。惚れてしまいそうな可愛らしい仕草に、私は半ばあきれた。
「何の本?」
「これ? ほら、この前大賞とった……」
「ああ、あれね。おもしろい?」
「うん。展開が早くて読みやすい」
「ふーん」
クラスメイトが二人、笑いながら教室に入ってきた。
「お、おはよう、あやめちゃん」
一人は気まずそうに挨拶し、もう一人は視線を逸らして関わりたくない様子だった。私が挨拶を返すと、二人はそそくさと教室を出て行ってしまった。
「ねえねえ、今日の私のお弁当、何だと思う?」
「え? えーと、なんだろうな……」
クラスメイトの反応はお構いなしに、少女は呑気な様子で訊いてくる。
「……からあげ?」
「正解! いいでしょー」
「いいなあ」
少女はにこにこと話を続けた。
しかし私はさっきのクラスメイトが気になって、心から笑うことはできなかった。
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