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「りっかー! ただいまー!」
帰宅後、夜壱くんが元気よく部屋のドアを開けると、六珂はベッドの上でスマホを弄っていた。不機嫌そうな顔で「なに」と短く応え、夜壱くんを睨みつけている。
だけど、夜壱くんはそんな六珂に怯むことなく、先程購入した小箱を目の前に差し出した。
「さっきはごめん! 言い過ぎた! 仲直りしよ?」
「…は? ……は?!」
「これ、バレンタインチョコ! りっか好きかなって思って!」
夜壱くんのストレートな言葉に、戸惑いと驚きを隠せない六珂が、「え、あ、うん……うん?」と混乱したような返事をする。
すごいなあ、夜壱くんは。
こんなに真っ直ぐな言葉で仲直りしようなんて言われたら、いつまでも不貞腐れて怒っているのがバカバカしくなるだろう。
身体を起こしてベッドに座った六珂の隣に、ススっと夜壱くんも腰掛ける。この距離の取り方も、さすが夜壱くんだ。
「俺、思ったことすぐ口にしちゃうから……今度から、気を付ける。ほんとゴメン!」
「………こ、こちらこそ、急に怒鳴って、ごめん……」
「仲直りしてくれる?」
夜壱くんがそう問うと、六珂がコクリとひとつ頷いた。
「よかったぁ!」と嬉しそうに胸を撫でおろす夜壱くんを見て、とりあえず僕も安心する。
喧嘩が長引かなくて本当によかった。
無事仲直りを済ませ、夜壱くんがチョコを六珂に渡し「開けてみて!」と言った。
りっかが好きそうなのを選んでみたんだー! と得意げな夜壱くんの隣で、六珂がポーカーフェイスのまま箱を開封していく。
ポーカーフェイスだけど、僕には分かっちゃうんだよな。
六珂が今、めちゃくちゃわくわくしてること。
「はあっ?」
と、思ったら素っ頓狂な声が聞こえて、僕は思わず六珂の手元を覗き込んだ。六珂がそんな声あげるなんて、箱の中身がそんなにすごかったのかな?
コンビニのチョコなのに??
「………ぶっ」
興味本位でその箱の中身を見た僕は、数秒の沈黙の後……思わず噴き出した。
こ、これは……!
「んふふっ、な、なにそれっ…あははっ、怖ッ…ぷくくっ……」
「へっ? へ?!」
「ははっ、よいちくんらしいね! あはは!」
なんで笑われてるの?! と夜壱くんがおろおろしている。
でもその隣で、同じく六珂も笑いを堪えて口元を押さえていた。
だけど僕の笑いにつられて我慢できなくなったらしい。そのうち声を出して笑い始めて「夜壱おまえサイコーだな!」と夜壱くんの肩に腕を回した。
まさか、仲直りのチョコにそんなチョイスをしてくると思わなかったから、僕も六珂もツボにはまってしまったのだ。
その箱の中には……あの有名なムンクの『叫び』の、その顔を模ったチョコレートが入っていたのである。
「なにこれ超うける! マジおまえセンスねえ!」
「え、え、だって六珂、ガイコツとか好きだから、こーゆーの好きだと思ったんだもんっ」
これはガイコツじゃないでしょう。と僕がツッコミをいれると、六珂も「それな!」と同調した。
「もー! そんなに笑うならあげないもん!」
「はは、悪ぃ、拗ねんなよ。一緒に食おーぜ」
「むむむ……た、食べる。」
夜壱くんは、すごく真剣に悩んでこのチョコを選んだのに、と最後まで口を尖らせていたが、六珂があまりに楽しそうなので許してくれたようだ。
ふう、よかった。とりあえずこれで一件落着、かな。
このふたりなら喧嘩してもすぐ仲直りできるなと実感し、僕は可愛いふたりがチョコを頬張る様子を側からニコニコと見つめたのだった。
P.S.
チョコレートが食べられない僕には、ハート型のおせんべいを買ってくれました。
ー仲直りの叫びー
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