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ーーザク、ザク、ザク……。
ーーザク、ザク、ザク……。
そんな不思議な体験から3日たったある日。また僕のものではない足跡が、僕についてきていた。
僕はすぐに振り向いて、彼女に挨拶する。
『こんにちは』
『このあいだの?』
『うん』
ここ3日間、寂しそうに公園を去っていく足跡が頭から離れなかったのだ。僕は意を決して、つま先で新たな文字を刻む。
『こうえん いかない?』
足跡は数秒間だけ考えて『いいよ』と答えた。
公園には新たな雪が降り積もっていて、3日前の僕らの会話はその下に埋もれてしまっていた。
『なまえは?』
ちょうど3日前、僕らが会話を刻んでいた辺りに、足跡が僕への質問を刻む。
『とうま きみは?』
『みゆき いつく?』
『18 みゆきは?』
『19 だいがくせい』
『せんぱいですね』
『こうこうせい?』
『はい』
『いいよ けいごじゃなくて』
足跡が、みゆきが柔らかく笑うのを感じる。
『どうして あしあとだけに?』
『わからないの』
『ぼくのこと みえる?』
『みえない あしあとだけ』
やっぱり。僕の予想は正しかったようだ。
『どうしたら もどる?』
『しらない』
『よかったら いっしょにかんがえるよ』
『ほんと?』
みゆきがぱっと瞳を輝かせたのがわかった。
『まいにち 16じに ここにいる』
『わかった まいにち くるよ』
真っ白な雪の上に、僕とみゆきの文字が刻まれていく。
今思えば僕はこのとき既に、彼女に恋をしていたんだろう。
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