雪上の言葉

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 公園でみゆきと雪上の言葉を刻み合い始めてもう1ヶ月になる。もうすぐ雪の降る季節は終わりを迎えようとしていた。  少し前と比べるとかなり暖かくなってきたし、もしかしたら昨晩の雪が最後になるかもしれない。 『いいよ もう』  その日、いつものように公園に行くと、みゆきは雪の上にそう書いた。 『きっともう もどれないよ』  何も言うことができなかった。僕らはこの1ヶ月、なんの解決の糸口も掴めないでいたのだから。  1ヶ月も言葉を交わし合って分かったのは、ある日突然、周りの人々が見えなくなってしまったこと、そんな中で僕の足跡だけが確認できたこと、他の人には彼女の足跡すら見えていないこと……それから彼女の天真爛漫で寂しがり屋な性格だけだった。  雪が降らなくなれば足跡がつくこともなくなり、彼女の存在は確認できなくなってしまうだろう。そうなれば彼女は、みゆきは、また来年雪が降り積もるまで、誰からも見つけてもらうことなく孤独に生きていかなければならない。  寂しがり屋なみゆきにはきっと耐えられないだろう。  ……いや、耐えられないのは僕の方ではないか?  足跡だけでも笑っているのか怒っているのか分かるその純粋さ。時々背伸びをして年上らしさを出すのに、結局失敗して拗ねてしまう愛らしさ。来るのが遅いと心配して泣きそうになりながら(これも足取りで分かる)駆け寄ってきて、『おそい』と怒ったフリをする優しさと、素直じゃないところ……。  顔も姿も知らないのに、僕は彼女に、その足跡からにじみ出る真っ直ぐさに、いつの間にか惹かれてしまった。 『まだ かんがえるよ』 『むだだよ』 『あきらめない』 『もう ゆきが ふら』 『すき だから』  僕は彼女の言葉が書き終わるのを待たずに、想いを雪上に刻んだ。  きっとぽかんとした顔をしているであろう彼女は、足を止めたまま動かなくなった。
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