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……どのくらい経っただろう?
数分か、数十分か、それとも数時間かもしれない。時間感覚など雪の中では無意味なのだ。
『ほんと?』
彼女は何も刻まれていない雪の上に、新たにそう書いた。
『ごめん めいわく?』
彼女がぶんぶんと首を降ったような気がした。
『わたしも すき』
今度は僕が固まる番だった。
とん、と胸に軽いものがぶつかってくる。
慌ててそれを包み込むように抱きとめた。
そっと胸の中を見ると、艶やかな長い黒髪の女性が僕の胸に顔をうずめていた。
「みゆき?」
想像していた姿とは随分違ったけれど、その女性がみゆきなのだろうとすぐに分かった。
「とうまくんだぁ……」
今までの子供っぽい性格からは想像がつかないクールビューティなその顔立ちを崩して、みゆきは瞳から大粒の涙を零しながら僕を抱きしめた。
僕も彼女の背中に手を回し、長い髪をそっと撫でる。
しばらくそうしていると、僕の胸の中にいるみゆきが突然くすくすと笑いだした。
「なに、どうしたの?」
「もっと頼れるお兄さんって感じだと思ってたのに、意外と可愛い顔してたから」
「それならみゆきだって、もっと幼い感じだと思ってたよ」
「好きだって言ったこと、後悔してる?」
「いや、むしろ……もっと好きになった、かな?」
恥ずかしさを押し殺して、僕は意地悪くみゆきの目を見る。彼女は「なっ!?」と顔を真っ赤にして僕の胸の中に隠れてしまった。
「……私も、顔を見たらもっと好きになったよ?」
僕の胸の中から、みゆきは上目遣いに僕を見つめる。
真っ赤になった僕を見て、みゆきはふわりと柔らかく笑った。
もうすぐ積もった雪が解けて冬が終わり、暖かな春が来る。
[完]
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