コインランドリー

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 およそ一年後、案の定僕は内定の無い就活生となっていた。 明日の面接に着ていくためのシャツがぐるぐると洗濯機の中でせわしなく回っている。  最後の一冊を読み終えてしまった。本を閉じるときに一瞬派手な色がちらっと視界に入る。裏表紙の内側を開くと、そこには見覚えのある付箋が貼られていた。 「お、全部読んだんだね。すごい!  几帳面そうなきみのことだから、本棚の端から端まで、順番に読んでるんだと思ったんだ。会うたびにほんの戻す位置が右にずれていってたからね。名探偵でしょ。  全部読んだご褒美に、10倍の利息付きだよ。LM曲線すっごいシフトしちゃう。  君がやってきたことは無駄じゃないよ、きっと」  丸っこい矢印の先には、千円札が両端をマスキングテープで止められていた。   名前も知らない世話の焼ける先輩を思い出しながら、僕は付箋を指でなでる。 「こんなサイズも持ってたのかよ」  たぶん、明日の面接は大丈夫だ。そんな気がした。
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