泣いて・・・

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 冬の真昼間に飛び出した俺は、木枯らしが吹く中、駅に向かって駈け出していた。駅に着くと、路線図に目を向ける。 『彼女が最後に死んだ場所は・・・、稲村ケ崎。その前にいたのが・・・、鎌倉だ』  彼女が送って来た画像を整理すると、鎌倉や稲村ケ崎を繋ぐのが、江ノ島電鉄だとわかった。江ノ電の始発駅が藤沢なら、まずは藤沢に向かおうと決めると、そこまでの料金を計算して電子決算カードにチャージした。  バイトもしていない高校生には、数千円のお金でも大金になる。親からの小遣いも僅かな額。まぁ、正月が近くにあると思えば・・・? 『あれ・・・?何だか、彼女の足跡を辿るのが嬉しいのか・・・?』  俺は、1時間近くかけて電車で藤沢駅に着いた。すぐに乗り換えて江ノ島電鉄で鎌倉駅の小町通へと向かった。  最初の画像の店がこの近くにあるかと思っていたのだが、再度検索にかけてみると、場所は離れていることに気づいた。  マップに住所を検索すると、駅の反対側に行き、しばらく歩いた先にカフェがあるらしい。  片側1車線の車道と並行している歩道を歩いて行く。古都鎌倉らしい情緒ある街並みが、何だか彼女をミステリアスな・・・、神秘的な女性に感じさせる。  俺は流行る気持ちを抑えながら、歩道を早歩きで歩いて行くと、目の前にトンネルが見えて来た。そのトンネルを抜けてすぐ左に、画像にあったチーズケーキを出すカフェがある。カフェの名前は『峠』という名前だ。  車ならすぐであろうトンネルは、人の足で歩くとなるとかなりの距離だ。暗く、ひんやりとするトンネルの中は、木枯らしが吹くとさらに冷たい。よく見ると、トンネルの中の壁が一部凍っている。  トンネルと出た瞬間、久しく感じる太陽の光がほんのり暖かい。その太陽の光を受ける小高い山の上に続く長い階段。その入り口になる場所に、『峠』と書かれた看板があった。  俺は思い切り深呼吸をすると、その長い階段を一気に登り始めた。段数を館添える余裕は無かった。ただ、上に行けば彼女に会える。いや、彼女はもうすでに死んでいるから、会える訳は無いけど・・・。  登り切った先に、白い壁の建物が現れた。影となった建物の入り口に入ると、オレンジ色の温かい色の電灯がほんわかと体を温めてくれた。  建物を通り抜けると、一気に山の上に広がる森が現れる。冬の森は赤や黄色、濃い緑色の葉や針葉樹、灰色の樹木が寂しげに目に飛び込んで来た。 「いらっしゃいませ」  ふと、左から声が聞こえて来た。  俺は激しく息をしている。自分では気づかなかったが、この長い階段を息を切らしながら登って来ていたのだ。そのせいか、無性に飲み物が欲しくなった。  メニューをザっと見てから、少ない小遣いから「鎌倉サイダーと、チーズケーキ」を注文した。 「出来ましたら、お持ちいたします。ストーブの近くの席へどうぞ」  見ると、全席テラス席になっていて、赤いパラソルを開いた丸テーブルの席が一つの煙突のついた銀色のストーブを囲むように配置されている。  俺は、中でもストーブに近いテーブルを選んで、そこに座った。  暫くしてチーズケーキと小瓶に入った鎌倉サイダーが運ばれて来た。  俺は持って来てくれた女の子に、スマホの画像に映る矢沢千恵の写真を見せた。すると、写真を見た彼女は、「あぁ・・・、この前の不審な女の子・・・」と言って、「ちょっと、待ってください」と、何かを思い返すような素振りを見せながらレジの奥へと戻って行った。すぐに、手に白い可愛らしい封筒を持って来ると、「その女の子が、自分を探しに来る男の子がいたら、この手紙を渡してと・・・」といって、手にした封筒を差し出した。  俺はその封筒を彼女からひったくるように手にすると、その店員は恐怖に引き攣った顔を見せながら、レジに戻って行った。  俺は彼女が残した手紙を読んだ。 ――こんばんは。こんにちはかな?この手紙が読まれているとしたら、私を探しに来てくれたんだね。ありがとう。私ね、亮君が死のうとした場所で、私も死のうかと思って行ったんだ・・・。でもさ、あの場所に先に越されていて、それで、死んだら・・・、心中?恋人が?えっ、私達恋人じゃないし!って、思ったの。なら、私は亮君の事を知る事は出来ないけど、亮君には、少しで良いから私のことを知ってもらいたい。そう思った。だから、この手紙を書いて残します。亮君・・・、私の事を知っていて欲しい。そして・・・――  手紙はそこで終わっていた。
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