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4枚目の写真、青い外壁の建物らしき物という事しかわからない。それがどこにあるのかも、俺は知らない。
「ここから稲村ケ崎へ向かうには・・・」
もう一度スマホの地図アプリを開いて、稲村ケ崎への道順を調べた。この鎌倉駅前から歩いて行くとなると、国道134号線の海岸線を歩いて行くことになる。江ノ電なら歩くよりも早く到着出来る。彼女はどっちを選択して向かったのか・・・?
何か考えても答えが出ない気がした。答えが出ないのなら、答えの出ている所へ先に向かうべきなのかも知れないと思い、小町通りを駅に向かって歩き出した。
小町通りは冬に向かっているとは、さすがに観光スポットだけある。一通りは多く、そのほとんどが観光客だ。中には、恋人同士もいる。外人もいる。
ふと感じた思いが、一つの答えに繋がるかもしれないと思えた瞬間。
「時間・・・?」
俺はスマホに送られて来た画像の投稿された時間を確認した。抹茶のソフトクリーム屋さんは16時過ぎだったのに、青い外壁の建物の画像は暗い夜の時間、18時過ぎ。この3時間の差は何かを意味しているように思えた。
『歩きだ・・・』
彼女は歩いて稲村ケ崎まで向かった。それなら、次の建物の画像が夜の風景になっていてもおかしくは無い。
俺は地図アプリを見直してみた。そして海岸線を歩いて移動できることを確認すると、彼女と同じ道を歩く事を決めた。
俺は大通りに出ると、二つの鳥居をくぐって海岸線に向かった。そこまで15分もかからなかった。そこから左へ江の島方面に向かって歩く。
海岸線を歩いているせいか、波の音が少し激しく聞こえる。夏の海とは違い、冬の海は荒々しく感じさせる。それでも、海に目を向けるとそれ程大きな波は立っていない。
『俺の心がそう感じさせるのかな・・・』
しばらくずっと歩き続けた。
俺はどれくらい歩いたのか時間を計っていないのでわからないが、気になる建物を見つけた。鎌倉駅から相当離れている場所だ。
その建物はホテルと名前が書いてある。その一階に併設された店の外壁が青く、ネオンが装飾されているサーフショップだった。
その店に惹きつけられるように脚が通りを横断する。遠く彼方から走って来る車がクラクションを鳴らした。自分では遠く離れていると思ったが、小走りで渡った時には、後方を物凄いスピードで車が走り去っていく。
サーフショップに入ると、日焼けした30代位の男性店員がサーフボードの手入れをしている。俺が入って来たのに気づくと、落ち着いた声で「いらっしゃい」と出迎えてくれた。
「あの・・・」
「んっ?何か御用ですか?」
店員は明るい声で尋ねて来た。
「すいません・・・。お客じゃないんですが・・・。この写真の女の子、ここに来ませんでしたか?」
俺は矢沢千恵の写真を見せた。すると、その男性店員が「あぁ・・・」と声を挙げて、「彼女、恋人?来たよ。それで、自分を探しに来る彼氏が来たら、手紙を渡して欲しいとか・・・。ちょっと、ウチじゃ預かれないからホテルのフロントに頼んでって伝えたよ」と教えてくれた。
「ホテルのフロント・・・?」
そう聞き返すと男性店員は静かに、視線と左手で隣と言いたげに指を指した。
俺は隣のホテルのフロントに向かう。
フロントマンに事情を話すと、すぐに思い出してくれて、さっきのカフェと同じ封筒を渡してくれた。
封筒の中身を開くと、手紙が入っていて、内容は『二人でこういうホテルに泊まれたら良かったなぁ』と、2枚目の手紙には『ねぇ、失くした物があるの・・・。次に写した場所で私の携帯を探して、見つけてください』とあった。
『携帯を探して・・・?失くしたって、どういうことだ・・・?』
俺はこの文面の文字を見つめながら、この次の行動を頭の中で整理しながら模索して見た。
『彼女に弄ばれている?それとも、死んだ後の世界で何か意図するものがあるのかな・・・?』
ジッと俺は動けず考えに耽っていると、さすがにホテル側の人から邪魔だという視線が向けられてきた。俺はとりあえず、ホテルの外に出て海岸側の歩道に行くと、もう一度手紙を開いて読み返した。
とりあえず、江の島方面に向かって歩き出す。何も考えられない。何も思いつかない。
彼女はなぜ、俺を選んだのか?
『疑問だ・・・。疑問・・・』
それでも今は、何故か前に進むしかないという思いが強く、歩き出していた。
闇が周りを包み込む。車のライトが眩しく照らしてくる。その光で自分がいる場所を特定は出来るが、写真の場所は特定できないまま歩き続けた。
どれくらい歩いたのか、稲村ケ崎と書かれている看板を見つけた。
闇夜に響く波の音は、周りを走る車の音と不協和音を奏でている。
それが奇跡を呼んだ。
不協和音を気にして、海とは反対の車道に視線を写した時、どこかで見た記憶のあるネオンが目の前に現れた。
「これ・・・。あのネオンしか映っていなかった写真の・・・、場所・・・」
それは稲村ケ崎にあるレストランだった。
俺は車道を横断して、レストランに向かって歩いた。レストランの階段を上ろうとしたが、足の筋肉が張って筋肉痛を起こしていた。そのせいか、なかなかスムーズには登れない。両手を膝上に置きながら、ゆっくりと昇る。
登った先、店内に入ってまず近くにいた店員に、彼女の写真を見せた。しかし、知らないの返答だった。
レストランから出て階段を下りると、駐車場に入ってみる。歩き回って疲れた足を休ませるために、適当な壁に寄り掛かりながら塀に座る。ふと、スマホを取り出し、彼女が最後に送ってきた動画を流してみる。
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