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「わたしは運命を司るもの。お前たちのたましいは今、わたしの内にある。とても哀しくて美しいたましい。これを抹消してしまうのは、惜しいような気がする。だから試練を与えよう。時間は戻りお前たちは生きる。人生はつづくのだ苦痛とともに。しかしお互いを愛する純粋で美しい気持ちを失わなければ、歴史は繰り返されお前たちには永遠が約束されるであろう」  気が付くと忠治(ただはる)は、元の岸壁の上にいた。とめどなく流れる涙とともに横を見ると、英次郎もまたむせび泣いている。すべてを理解した二人は、抱き合って泣いた。  そして二人の目の前には、漆塗りの小さな箱があった。不思議なことに、何をすべきかはよくわかっていた。そしてあふれ出る二人の愛の涙を箱に納めると、朱色の組み紐をきつく結んだ、けっして二人の愛が逃げないように。  そしていつもの生活に戻った。箱は秘密裡に借りた貸金庫に入れて厳重に保管した。月日は流れ忠治は46歳で病によりこの世を去る。早すぎる死ではあった。  英次郎は嘘をついて家族と暮らす苦しさを少しでも減らすため、忠治のいなくなった日本を去り単身で長期海外出張に出る道を選んだ。そしてその時が来るのを、忠治の事を想い続けながらひたすら待った。祖父に生き写しである章夫にあの箱を渡し、忠治の愛とたましいを吹き込み、共に過去に戻り二人で愛し合うその日まで。  そして歴史はまた繰りされる、他の者の存在を奪ってまでも……。 完
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