140字SS 1-10

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140字SS 1-10

-1-  夜があけた。みんなにはいつもの朝だろうけど、ボクにとっては特別な朝。  明けましておめでとう。明けましておめでとう。長い長い夜だった。  父は餅をのどに詰まらせ、声も出せず、じたばた暴れて動かなくなった。  ボクは安心して布団に入る。これで今日から殴られずに済む。 -2-  小花模様の壁紙。真っ白で大きなフリルのついた枕カバー。ピンクのお布団と白いベッド、ふかふかのスリッパ。  念願の一人暮らしが始まり、ずっと憧れていた部屋がようやく実現した。そのうちリビングも変えていく。私の好きなものだけに。  ごめんなさいねおじいさん、仏間だけは残しておくから。 -3- 「あの、どうか」  突然現れた白い髪の少年は、勇気をふりしぼった声で言った。 「僕のごはんになってくれませんか」  可愛かったので話を聞くと、彼は吸血族の亜種。生物の『気』を糧とするもの。 「僕、食べられる相手が偏ってて」  私の生気なら喰えるらしい。  はて、人魚専門とはまたニッチな。 -4-  腹にまだへその緒がついた仔犬を拾った。小さく弱々しいので、母犬に見放されたのかもしれない。連れ帰って世話をすると、すくすくと元気に育った。  成犬になった頃、村人が私の庵を焼きに来た。森の魔女を殺せと。  犬は口から火を吹いて追い払った。  お前、頭が3つあるだけじゃないんだねえ。 -5-  この国の誕生日ケーキは小さい。直径10cmほどの一人用。  中にはランダムでいろんな職業の人形が1つだけ入っている。6歳から16歳までの間に毎年1つずつ集め、将来を占うのだそうだ。 「今年は何だった?」 「ヘビ使い」  世界は広く、人生は意外な道に繋がる事もある。それを忘れずいるために。 -6-  いつ買ったのか思い出せないペンが一本。  ためしに書いてみると、線がキラキラ輝いている。  おまじないの本を開き、魔法陣を写してみた。 『あら、素敵。こんなものを書かれたのは初めて』  どこからか声がして、ノートから妖精達が次々に飛び出してくる。  描いたのは【明日が楽しくなる魔法】。 -7-  その蝶が現れたら『何か』が終わる。  吉兆とも凶兆ともとれるその存在は、神の使いと言い伝えられていた。  旱魃が終わった年も、疫病がおさまった年も。都が津波に呑まれてなくなった年も現れた。果たして今回は。人々は噂する。  終わるかもしれない。どさくさ紛れに攻め入ってきた隣国の支配が。 -8-  大学の先輩が「一人暮らしなのに、時折誰かがいるような音がする」というので見に行ってみた。  万が一、不審者が入り込んでたらいけないので。  ……でも違った。ただの霊。 「ただのって何!?」 「猫です。以前、この部屋で暮らしてたんじゃないですか」  以来、先輩は猫缶を買って帰るようになった。 -9-  私がその人の文を好きな理由の一つに、性的描写やそういった展開がない事が挙げられる。  どんなに破滅的な話も、孤独な世界も、どこか澄んだ空気に満ちている。  私はその空気を吸いたい。  その世界で眠りたい。  世界の醜さや残酷さは、けしてなくなることがないとしても。 -10-  怪しい古物商から、小鳥の置物を買った。僕が眠ると、耳穴をほじるようにして嫌な記憶を食べてくれるという。  心に残る嫌な出来事や後悔を、全て食べ尽くすと羽ばたいて店に帰るのだという。  小鳥がいなくなり、僕は元気になった。  そして鬼門だった上司の逆鱗に触れた。対処法まで忘れていた。
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