140字SS 91-100

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140字SS 91-100

-91- 「最近、半グレのアイツ見ないね」 「ああ、もう学校来ないと思うよ」 「なんかあったの?」 「こないだ隠キャの田中に絡んでカツアゲしてさ」 「はあ」 「田中もビビりだから、これがずっと続くと困るって事で、呪ったらしい」 「呪った」 「オタクに手加減なんてもんはないからさぁ…」 -92-  森に置き去りにされた兄妹は、お菓子の家を見つけました。二人が喜んで食べていると、魔女が帰ってきました。 「なんてこった! それは今度のコンクールに出すアタシの作品だよ!」  怒った魔女は、兄妹に作り直しの手伝いを命じました。  ――伝説のパティシエ、グレーテルの物語はここから始まったのです。 -93-  人は何度も生まれ変わる。様々な生を体験することで、視野を広げ、魂の格を上げてゆく。  生前、悪事を働いた者は地獄に堕ちる。罪が重いほどに長く。 「何も矛盾しないんだよ」  次は、君が憎んでやまなかった隣国の人間に生まれ変わる。  誰もが地獄を抱えていることを知るために。 -94- 「僕は子供の頃からこだわりが強くてね」  自分がこう言ったのだから、相手にはこう返して欲しかった。  自分のいる場所なのだから、こういうルールであって欲しかった。  思い通りにならない『世界』に苛立ちが募る。 「だから創作の世界に踏み込んだのさ」  ここなら全ての我儘が叶う。 -95-  その村には奇妙な地蔵があった。顔がないのだ。 「占い地蔵、と呼ばれとるよ」  地元の人はそう言った。 「お参りの後、夢の中でお地蔵さまが笑っていらしたら願いが叶う。怒っていたら自分を顧みろと」  失踪した妻子は見つかるだろうか。  手を合わせた夜、地蔵は蔑んだ顔で僕を見下ろしていた。 -96-  気球祭りというから、もっと長閑(のどか)なものを予想していた。 「冗談じゃない。これはれっきとした試合(ゲーム)だよ」  上空から様々なルールに従って砂袋を投下する競技。 「我が国の技術や練度を他の国に見せつけるんだ」  それで魔術師どもが殺気立ってるのか。……しかし、風竜まで引っ張り出すのはやりすぎじゃないか? -97-  隠し扉を開けると、そこには秘密の小部屋があった。 「ワオ!」  この別荘に初めて来た妻は大喜びだ。 「まだまだ」  小部屋の床は隠し階段に繋がっている。 「あなたのお祖父様、最高ね!」 「だろ?」  地下室に入り、檻の戸を閉める。 「そこに祖母もいる。ゆっくりしてくれ」  浮気者同士、永遠に。 -98- 『人の心が読めたらいいのに』  幼い私はよくそう思っていた。周りの人が何を考え、何を期待してるのかわからず苦労した。  SNSが普及し、人は匿名で本音を言うようになり私は喜んだ。  こんな視点があるんだ。こんな感情が。  やがて辛くなった。  愚痴。認知の歪み。的外れな敵意。  なんて醜い…。 -100-  世に長引く疫病で、ここ数年は外出も帰省もままならない。  せめて、と先日娘と並んで撮った写真を実家に送った。すると母からすぐに電話があった。 「おばあちゃんに写真を見せたよ」  祖母はもう卒寿を越している。 「あんたを指して『これは誰?』って言うの」  母の声は重かった。 「本気で痩せなさい」
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