140字SS 21-30

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140字SS 21-30

-21-  その実を食べると、全ての異常が消える。不治の病も瀕死の怪我も。  だから万能の実だと、奇跡の実だと語る者もおる。  だが、正体を知らずに口にしてはならんよ——アレは一度、肉の器を溶かす。  魂だけになり、新たな肉で生まれ変わる。  ゆえに、元の世界には戻れなくなるのさ。それでも欲しいか? -22-  夏休みは、祖母の家に預けられる。  よく晴れた日、田んぼへ続く道の途中。一面にガラスの風鈴が吊るされた広場に出た。 「きれい……」  チリチリ鳴る風鈴はやがてガラスの笠が膨らみ、萎み、くらげが泳ぐように一斉に青空へ飛び立った。  ——はっと気づくと、仏間で寝ていた。 「夢……?」  ああ、今日はご先祖様があちらに帰る日。 -23- 「今日の予報は『くじらぐも』だよ」  配達に出る際、同僚がそんな声をかけてきた。 「気をつけて!」  届け先は山の中腹にある町。階段が多いのでフライングバイクに乗る。 「うわっ⁉︎」  見上げた空一面に鯨の群れが泳いでいた。 「くじらぐも、って…」  鯨のような雲、じゃない。  鯨で曇る天気のことか。 -24-  赤ん坊を貰った。育てられないと年若い親が泣くから。  なら俺たちが仲間として面倒をみるよ。永遠の野原で草笛を吹いて暮らそう。  ……大きく育った幼子は、不思議な声で日々歌う。  母は父の影を踏み、父は母の影を踏む。私は誰の影を踏む。私は影を持たぬのに。  朝焼けと夕暮れの国の娘として。 -25-  大地の女神には、四人の夫がいた。  水、風、光、金。四神は常に彼女を敬い、愛し、女神は四神を平等に扱う。  寵愛に偏りがある時、気候は乱れた。  闇は彼女の五人目の夫となる事を欲し、炎は全てを奪うことを欲していた。  男神達の暴走を抑えつつ世界の秩序を保つ、ハーレムシュミレーションゲーム。 -26-  私はもうずっとこの世界で過ごしている。現実の私はそれを忘れがちだけど。  本当は何年も前から、こちらに居場所を得てもうひとつの人生を歩んでいる。  ――という夢を見た。  あの世界に帰りたい。もう一度。目が覚めて、洗い流すように記憶は消えて行ったけど。  幸せだったことだけ覚えてる。 -27- 「なあ、俺の取り分よこせよ」  強盗の後、分け前で揉めて殺した。重りをつけて海に沈め、俺は逃げた。なのに。 「よこせよ」  またあいつがやってきた。  来るたびに体格も服装も様々だ。  首から下はまるで他人なのに、顔だけは変わらずあいつのまま。  もう何人殺したかわからない。  そしてまた—— -28-  うちの店主は美しい。  すらりとした長身、なめらかな肌、切れ長の目、艶やかな白い髪は青みを帯びて腰まで届く美青年だ。が。 「シロ……が、好みなの?」  この世界の美的感覚では、私は物好き扱いされてしまう。 「ニンゲンはわからんわー」  獣人の街では筋肉と毛皮が重要。 -29-  バーで知り合った吸血鬼と出かけてみた。彼はようやく日の光を克服したので、夜遊びならぬ『昼遊び』がしたいそう。  映画やカラオケには飽き飽きしてて、ランチや公園巡りが新鮮らしい。  しかし夕立にあうのは初めてだったらしく、一歩も動けなくなっていた。  流水がまたげないのか、そうか……。 -30- 「……つまりあなたは、わたくしではない、別の方と一夜を過ごされると言うのですね」 「その通りですが、ただの夜勤です奥さん」
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