140字SS 61-70

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140字SS 61-70

-61-  雪が降る。  様々なものを白く覆い尽くす。残るは黒い影ばかり。  さくさくと夜道を歩いていると、笠を被り蓑をまとい、提灯を下げた(わらし)がいた。 「おや」 「久しぶり」  白いコートに黒の上下。景色と同じ色彩を纏った僕は、昨年一度この異界に迷い込んだ。 「あの時のお礼を、持って来たよ」 -62- 「子供と家畜を家の中へ!」  切羽詰まった声が響く。 「飛遊タコの目撃があった!」  空を泳ぐクジラがいるのだ。地上を泳ぐタコもいる。敏捷で賢く肉食の上、その擬態能力はとんでもなく高い。 (たしかタコの弱点は…)  眉間。壺。それに。 (淡水!)  旅人は水の精霊を呼び集める。  天へ昇って雨を呼べと。 -63-  死後の裁判で有罪となった。 『お前の呪いでAは大怪我、Bは重病』  待って。確かに人を呪った事はある。  でも私が恨んだのはCとDだ。  ABの不幸は、私と関係ないはずだ。 『……お前がノーコンでも、罪は罪だ』  ノーコンて。  確かに球を投げればあさっての方に行くタイプだったけど。  いや待って。ねえ待って。 -64- 「貴様、どうやってここへ⁉︎」 「彼女が私を呼べば、いつどこにいても駆けつける。そう契約した」  その約束が100年前でも1000年前でも。  彼女が覚えていてくれるなら。呼んでくれるなら。  ずっと縛られていよう。喜んで。 「コレお1人様2個までなのよー」  今生(こんじょう)は随分と呼び出しが多い。平和万歳である。 -65- 「ねえ、2人で楽しいことしない?」  知人女性からのお誘い。 「楽しい?」 「あなたが知らない世界よ」  まあいいかと行ってみると。 「フランスの作品にはね、アブストラクトが多いの。将棋みたいな、運要素のないゲーム。たいてい2人用」  彼女はボードゲームマニアだった。みっちり5時間遊んだ。  それが、付き合い出したきっかけだよ。 -66-  国が保護している竜が卵を産んだ。  これで三千年先まで安泰だ、と国民たちはお祭り騒ぎ。お祝いにきた隣国の竜はこっそり囁いた。 『お前の所の人間どもは単純だな』 『まったく。飼い主として当然面倒はみてやるが……最近少し増えすぎだ、少しいらないか?』 -67-  私には、人には見えないものが見える。  最近気になるのは、美術部の彼女。  肩甲骨の下から、植物の芽が出始めた。やがてそれは羽のように葉を広げ、花を咲かせる。  彼女が描いている絵が完成した時、背中の花は散る。  きっとあれは彼女が抱く情熱の形。  今回は白い花だった。次は何が咲くのだろう。 -68- 「誰かを傷つける真実より、誰も傷つけない嘘の方がいい」 「いつも本当の事を話す人より、優しい嘘がつける人と話したい」  大抵の人はそうだよね。その方が安心できるから。……でもね。 「あなたは嘘をつかない代わりに、相手を励ます真実を選んで、口にする」  だから、好きになったの。 -69- 「完璧だと思ってた人の一点を嫌いになると、一気に全部嫌いになるの、なんなんだろうな」 「野菜ジュースにレモン汁一滴入っても大した事はない。しかし紅茶にレモン一滴入ると味が変わる。  つまり完璧だと思ってた相手の僅かな面しか元々知らないから、全部が簡単に塗り替えられる」 -70-  人の心は物語に弱い。物事に理由を求めるから。何故自分がこんな事に? あの人はどうしてあんな事を? 心の安寧のために、物語は作られる。 「というわけで君には犯人になってもらう」  何でも屋協会は、報酬次第でどんな役でも引き受けます。あなたに必要な物語の登場人物として。
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