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140字SS 71-80
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吹雪で山小屋に三日三晩閉じ込められた。
「仕方ねえ、限界だ」
地元の案内人が床板を剥ぐ。
「旅人さん、ここで見たことは一切他言するな」
地下に繋がる階段。降りてゆくと、やがて広々とした場所に出た。
これは……地下街?
「表向きは貧しい方が、他国から狙われにくいんだ」
温泉に浸かって思った。俺ここに住む。
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雪が降ってきた。寒いな。積もるかな。止まないかな。いつまでこんなに寒いんだろう。
凍えていたら、顔見知りの彼女がやって来て、そっと抱きしめてくれた。
「寒いね。ねえ、そろそろうちの子にならない?」
その手の温かさに、思わずニャア、と応えた。
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氷の城で雪が降る。
先日女王に迎えられた少年が、魔法の練習をしているのだ。
だがなかなか上達しない。
「君は何を思って雪を創る?」
氷の兵士は尋ねた。
「上手になって、女王に喜んでもらうんだ。僕を拾ってくれたから」
「それでは無理だ」
君の心にはまだ温もりが残っている。
だから雪が溶けてしまう——
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田舎の駅。夜の雪が線路に降り積もる。運行遅延の情報が中止に変わった。
「マジか……」
誰もいないホームで呟くと、遠くから光が近づいてきた。
「え?」
人影を乗せて走り抜けてゆく車両。
しかし見直すと、線路には踏まれた跡のない雪が変わらず積もっている。
後日地元の人に話すと、命拾いしたな、と言われた。
もしあの列車が目の前で停まっていたら、乗り込んでしまっていただろう。
だが、あれは……。
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あの山に入ってはならん。かつて愛した男を氷漬けにした雪女がおるでな。
この時期、奴は温もりに飢えておる。
人や動物を襲って喰らい、その熱で自分も人になろうと願う。いつか男と添い遂げられるモノになりたいと。
愚かなことよ。愛する者まで喰らわねば、人なんぞには堕ちぬのに。
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猫の中にも異能を持つものがいる。
その名も『化けの皮』。
自分以外のものに姿を変えられる能力だ。
「お前……路地裏ボスのフリをして餌を漁っていたのか!」
猫は猫に化けるのが一番自然。野良なら。
「じゃあ猫耳美少女に変化したうちの飼い猫は……」
「猫界隈では相当な変態ですね」
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脱衣所に入ると、いてはならないものがいた。
大きな鎌に骸骨の顔。長いローブは何故か真っ白だが、どう見ても死神だ。
「おや、私が見えるとは珍しい」
「な、なんだお前」
「お分かりでしょう。……お迎えです」
「馬鹿な。俺はまだ若いし、体も健康だ」
「貴方ではなく、この洗濯機です。私、家電担当でして」
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PCの動作がおかしいので、友人に見てもらう。スマホで調べた検索結果とはまるで違う、古い記事ばかり出してくるのだ。
「……このPC、冥界に繋がってる」
友人が漏らした。
「今は存在しないHP、サービス終了したゲーム、消された書き込み——ネットの『あの世』に繋がってる」
マジか。つまり俺の黒歴史もここに。
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0時の鐘が鳴り始めると、シンデレラは慌てて駆け出しました。
王子が後を追うと、舞踏会の間に降り積もった雪の上に彼女の足跡が残っています。
馬に乗って跡を辿ると、湖の手前で途切れておりました。
辺りを見回せば白い鶴が飛び立ってゆくところ。
王子は先日助けた鶴を思い出すのでした。
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前世の相棒は鳥に転生していた。
九官鳥だから、言葉で意思疎通ができるのがせめてもの救いとはいえ。
「話し相手にはなっても、役には立たないな……」
「阿呆。鳥には人に見えない色が見える——憑いてるヤツらがわかる、って事だ。
さっさと俺をこの檻から出せ。祓い屋復活だ」
「今まだ夜だぞ」
(※鳥の目は紫外線が見えるため、人間とはものの見え方が違うらしいです)
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