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「やっぱり、あなたには分からないだろうな。」
男が私を睨むように言った。男は私に同情を期待していたのかもしれない。
「他人より劣る事がどういう事なのか。誰もがまともじゃない俺を見て笑っているさ。まるでピエロでも見るかのように。そしてみんなそのうち飽きると去っていく。もしかしたら、『俺はあいつよりマシだ。』なんて考えているのかも知れない。」
男は必死に訴えた。もっとも、『も』を持っていない私に何を必死に訴えているのかは私にはさっぱり分からなかった。きっと、男の中でカプセルのような何かがプチンと音を立ててつぶれてしまったのだろう。
「そう。みんな俺を見れば、馬鹿にして安心する。俺はつまり笑いの的なのさ。」
そう言った男はきっと知らないのだ。男が他人に縛り上げられ、つるされて、北京ダックのごとくショーウインドーに飾られる存在であったとしても、ショーウインドーでポージングを決める北京ダックがいる世界もあるという事に。
しかし、それだってわざわざ私が説く必要のある事ではない。
私はただ世間話を続けるのだった。
「笑いの『MATO』か。それはお前にお似合いだな。」
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