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私は彼に『め』を与えた。男は肩を落としながら『め』を受け取った。彼は『め』に興味を示さなかった。彼が欲しいのは『も』なのだ。しかし、『め』が与えられた彼はそれを受け入れる他ない。
男は『め』をつけて生き始めた。
「まず手始めに、美輪明宏の髪をまとめてポニーテールにしてやろう。どうだ、可愛らしさがでたぞ。」
「次は校長先生の朝礼の話を短くまとめよう。『皆さんおはようございます。』…ん?校長の話なんてこれ以外内容無いな。これだけでいいや。」
「よし今度はデカい事をやるぞ。そうだドイツは東西がまとまって平和になったのだから朝鮮半島も南北統一してしまおう。南北の分裂が長く続くと良くない事は後醍醐天皇が証明しているのだ。」
男は次々にいろんな物をまとめていった。しかし、他人より劣っている男がやった事が上手くいくはずはとてもなかった。
美輪明宏はオーラを失ってしまい、スマホの待ち受けに設定する人はいなくなった。校長先生は唯一の仕事がなくなり、校長室に引きこもるようになってしまった。そして、国家の統一には、教科書の文字で読む以上に多くの犠牲を払わなくてはならないという事を男は学んだのだった。
「やはり私はダメな人間だ。『も』さえ手に入ればよいのに。なぜそれだけの事が叶わない。」
再び男は『も』を欲した。男が『め』を扱いきれなかった事は、すなわち男が『も』を手にしていない何よりの証明である。その自覚がより男の『も』に対する要求を高めるのだった。
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