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それでも、私は男に『も』を与えない。男は私に与えられた『り』を渋々受け取るのだった。
「はい。そこまでだ。動くなよ。
おい。なんだこの注射器は。お前これ使ったな。
ん?ライターもあるという事は葉っぱもやったな。
お、あったあった。なんだこの白い粉は。まさか塩だとかふざけた事言うんじゃねえだろうな。
あ?『片栗粉だ』だと?ふざけんな。塩じゃなけりゃ片栗粉だとかつまらない事言ってんじゃねえぞ。
こっちはプロだぞ。ちょっと、舐めれば分かるんだよ。これでシャブだったらお前当分娑婆には出てこれないと思え。
うるせえ。これはうっかり親父ギャグだ。事故みたいなもんだ。
さて、どれどれ。舐めてみるか。
あれ?なんかだんだん気持ちよくなってきたな…。あれ?レロレロ。なんで俺ここにいるんだっけ?
あ、おい逃げるな。ダメ、絶対。こら逃げるな。ん?なんで俺あいつを追っているんだっけ?
お、足元がおぼつかない。」
薬の効果が切れるころになって、男は虚無感に襲われることになった。
薬の効果が切れると虚無感に襲われることがよくあるそうだが、男が襲われた虚無感の起源は薬ではない。それはただ、一人の薬物犯罪者を捕まえる事さえ自分にはできなかったという無力さからくる虚無感である。
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