赤い薔薇は、またいつか

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 彼が初めて薔薇をあげたのは、小学生の時。  両親が営む花屋の手伝いをしていた彼は、物心つく前から花が好きだった。花の種類、栽培方法、花言葉に至るまで、大人顔負けの博識ぶりだった。  だが口下手だった。  彼は花の美しさに惹かれるあまり、いつしか同い年の友人を作ることを忘れていた。  孤立する彼を、周囲の子供は笑った。暗い、変な奴、男なのに花好きなんて……視野の狭い嘲笑が毎日浴びせられた。  そんな彼の元に、一人の少女がやってきた。それが彼女だ。  彼女は同情でも嘲りでも何でもなく、ただ好奇心に目を輝かせながら彼に尋ねた。 「これ、あそこに咲いてたの。なんて花?」  お隣の喫茶店の娘だった。  彼女は、男なのに花が好きだということを笑わなかった。それどころか『すごい』と言った。そんな彼女が、薔薇が一番好きだと言った。   だから彼は幼なじみの彼女の誕生日の度に、なけなしのお小遣いをはたいて薔薇の花を贈ろうと思った。  毎年、毎年、彼女のために。  それは二人が中学生になっても続いていた。  今年も、彼はピンクの薔薇を一輪、赤いリボンを結んで差し出した。 「ありがとう! でもどうして毎年ピンクなの? 赤いバラじゃないの?」  彼女は初めて薔薇をあげた時と同じように、頬をピンク色に染めている。  近所の公立中学の質素な制服に身を包んでいても、それは少しも失われていない。  彼もまた、昔と何も変わらない仏頂面を学生服に包み込んだ姿で答えた。 「赤い薔薇は『あなたを愛してます』って意味だから」 「なに、それ?」 「花言葉。ピンクの薔薇は……『可愛い人』」 「本当!?」 『可愛い』の言葉に、彼女は素直にはしゃいでいた。 「そっか。『あなたを愛してます』じゃあ、赤いバラは無理だね」 「……うん」  棘があると怪我をさせてしまうかもしれない。彼は毎年必ず、棘を削いでからリボンを結んでいた。  それなのに、彼女の言った言葉が、何故か小さな棘のようにチクリと胸に刺さり、痛みを生んだ。
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