赤い薔薇は、またいつか

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 十年後――  その日は、いつかのように快晴だった。    陽光があらゆるものに反射してあらゆる場所でキラキラしながら降り注いでいた。日差しまでが二人を祝福しているかのようだった。  晴れやかな空の下、大勢の歓声を受けて、二人はライスシャワーを浴びていた。  花婿は白いタキシードに、花嫁はレースでいっぱいの真っ白なドレスに包まれ、そして二人ともほんのり頬を赤く染めて見つめ合っていた。  そんな二人の晴れやかな姿を、少し離れたところから、花嫁の父と花婿の母が二人並んで見つめていた。 「今、最高に幸せよね、あの二人」 「ああ……今だけじゃなく、ずっとだ」 「あなたがくれた花束みたいに?」  訊ねると、彼は肩を竦めた。  式の日の朝、彼は彼女に花束を渡した。誕生日の薔薇だ。  贈ったのは、紫の薔薇が50本。 「50本は『恒久』よね」 「なんだ、知っていたんだね」  彼女も長い付き合いの間に調べていた。薔薇の花は色だけでなく、本数にも意味があると。 「紫の意味は『気品』だよ」 「どうして、あの花束を?」 「……そのままでいて下さいということだよ」  二人は、互いに”今のまま”でいることに決めていた。  彼女は、夫と反りが合わず離婚した。ずっと、息子も同じ運命を辿らないか心配していたが、彼が背中を押した。『君の息子は、幸せの意味を理解しているから大丈夫』と。  そして彼は、妻に先立たれた。  誰にも告げていなかったが、妻は死の直前に離婚を申し出ていた。彼が断わると、妻は涙を流した。『2番目の女のままで終るのは嫌だ』と。  妻は、すべて分かっていたのだ。その上で彼を支えてくれていた。  そんな妻を一人で死なせるなど、できるはずがなかった。  彼は生涯、妻の”夫”で、娘の父であると決めた。  彼女もまた、息子を生まれ育った地から引き離してしまった時から、生涯息子の母として生きると決めてきた。  娘たちは自分たちに結婚を勧めてくれたが、互いに伴侶は必要ない。そう思っていた。  二人に悲しそうな顔をさせてしまっても、答えを変える気はなかった。  もしもただの一人の人間として、胸の奥底に秘めた想いを伝えるとしたら、その時とは……
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