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プロローグ
今朝からの雨は降り続き、夜になっても止む気配はなかった。屋根から落ちてくる雨は滝のように流れ、地面に打ち付けてくる雨はテレビの音すらかき消すぐらい大きなごう音を立てて部屋の中に響いていた。
テレビの天気予報は、明日も雨が降り続けることを予想していた。
「はぁ~」とため息をつきながら桜木舞依はテレビを消した。
大きなぬいぐるみに囲まれた自分の部屋の中で、パジャマ姿のまま舞依は窓辺に立ち憂鬱そうに自宅の二階の自分の部屋から窓の外を眺めた。強い雨と風のため庭に咲いている赤いカーネーションの花が押し潰されんばかりに揺れていた。
外の様子を見るため舞依は窓を開けてみた。横風と一緒にたくさんの雨粒が舞依の部屋の中に吹き込んできて、舞依は慌てて窓を閉めた。
「なんて、雨だろ」
憎々しく呟やくと舞依は、カーテンレールに吊るしてあったてるてる坊主に目を向けてみた。半月型の笑い口に、ごまのような小さい目がありキリリとしまった眉毛が書いてあった。
舞依はてるてる坊主の目の前まで来ると、顔の位置に吊るしてあったてるてる坊主に向かって、突然歌い始めた。
『てるてる坊主、てる坊主、明日天気にしておくれ いつかの夢の空のよに 晴れたら金の鈴あげよ♪』
歌い終わった舞依は、てるてる坊主に向かって手を合わせた。
「一生のお願い。てるてる坊主君、明日天気にしてくれませんか?」
舞依はてるてる坊主の顔をじっと眺めていた。
「明日、伸也とデートなの。私、ずっと楽しみにしていたんだ。願いをかなえてくれるならなんだってするからさ。今回だけは特別に願いを聞いてもらえないかな」
てるてる坊主は笑った顔のまま黙っていた。
「お願い聞いてくれるよね・・・?」
舞依は顔を伺うように見つめた。
「もう何か喋りなさいよ。張り合いないんだから・・・」
舞依は、てるてる坊主の額の辺りを指先で押してみた。てるてる坊主はその勢いで、ゆらゆらと揺れていた。
「私、信じてるからね。じゃあ、おやすみなさい。期待してるよ」
パッと部屋は真っ暗になり、舞依はベッドに潜り込んだ。
強い雨は依然として降り続き、舞依の部屋の窓をガタガタと揺らしていた。
次の朝、小鳥が舞依の家の前のブロック塀に止まった。羽をくちばしでつつき、チョコチョコと二、三歩歩くと羽を盛んに動かし飛んでいった。
東の空が明るくなり、朝の光が段々とカーテンを透かして舞依の寝顔を照らしていく。舞依は眩しさのため、まぶたを微かに動かし寝返りを打った。
数秒後、舞依は慌ててベッドから起き上がった。
「晴れてる・・・」
まるで奇跡でも見ているかのような目で呟いた。舞依はベッドを降り、窓辺に立った。カーテンを開けると昨夜の雨が嘘のように外は晴れ上がっていた。
庭先を見てみると雨で濡れた赤いカーネーションが、やわらかい陽ざしを浴びて銀色に輝いていた。
舞依は窓を開け、ひんやりとした空気をおもいっきり吸い込んだ。
「ん~、最高!」
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