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空は夕日に染まったあかね雲が幾筋も棚引いていた。部活が終わり、制服に着替えた舞依と明里は、歩きながら校門の方に向かっていた。舞依は自転車を手で押しながら、明里とたわいもない話で盛り上がっていた。
ポプラ並木の下、校舎から門へと続く広いコンクリートのスロープの真ん中ぐらいに来た時に舞依は突然足を止めた。
舞依の目の前には大きな桜の木が一本立っていた。そのすぐ下には小さな地蔵が置いてあった。赤い頭巾と赤い前掛けをした子供の姿をした地蔵は風化がかなり進んでいて顔のおうとつが削れて、表情がほとんど消えていた。舞依はその地蔵まで歩み寄ると、腰をかがめて静かに手を合わせた。
「あんたも毎日毎日、よく飽きずに手を合わせているよね」
舞依は目を閉じながら、後ろにいる明里に応えていた。
「うん、もう習慣になっちゃってね。帰り際にこれをやらないと落ち着かないんだよ。今日はテニスがもっとうまくなりますようにお願いしちゃった」
舞依は立ち上がると、再び地蔵にお辞儀をした。明里は呆れたようにため息をついた。
「私なんて、できるだけここの地蔵から目を遠ざけようと思っているのに。あなた、変わっているよね。この地蔵の噂、知ってるでしょ。殿様の機嫌を損ねて、首を斬られたという男の人の話。その人を弔うためにここに地蔵を建てられたというじゃない。その後現代の世になって、この学校を造るために地蔵の場所を移動させようとしたら、関係者に大怪我や原因不明の病気が発生したりして・・・それでこの地蔵は動かすのを止めたといういわく付きの地蔵だよ。怖くない?」
「知っているよ。当然。ここの生徒なら誰だってね。私はだからこそ、その男の人の霊を弔うためにこうやって手を合わせているんだよ。私が高校にいる間だけは、私だけでも霊を鎮めてあげたいんだ」
「ふ~ん、ご利益あるといいね。一緒にテニスの地区大会に出られるように祈っておいてよ」
「うん、もちろん祈っておいたよ。でもそのためには、もっと努力が必要だよね。明日からは頑張るよ」
舞依は軽く微笑みながら自分を鼓舞するように力拳を作っていた。
「おぉ、言ってくれるね。さっきまでは落ち込んでいたのに。じゃあ、もう安心だね。明日からは一緒に地区大会に出られるよう頑張ろう」
明里と舞依はタイミング良く右手を上げてハイタッチをすると、お互いに顔を見合わせてにこやかに微笑んでいた。
校門を出た舞依は、反対方向に帰宅する明里と別れを告げて家路に就くため自転車にまたがろうとしていた瞬間だった。舞依の目の前に先程の子供が立っ
ていた。太い眉につぶらな瞳をし、赤い柄のTシャツを着ていた子供は右手には木の棒を杖のように握り締めていた。間近で、見たけどやはり見覚えのない顔であった。
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