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舞依はやはり自分には関係のない子供だと思い、少年の横を通り過ぎようとした。
「ちょっと待てい!」
後からよく通る大きな声が飛び出すと、舞依は驚いて後ろを振り向いた。
そこには先ほどの子供が大きく足を広げ、腰に手を当てて舞依の方を見ていた。
「びっくりしたぁ。なんなのよ。心臓が止まるかと思ったじゃない?」
「儂のことを無視するからだ。何、儂を無視して通り過ぎようとしてんじゃ」
子供は不愉快そうに顔をしかめた。
「儂って、あなた幾つよ? 子供のくせに。大人をからかわないでよ」
「儂はお主よりもずっと前に生まれてるんだ。年上の者には、敬意を込めて喋りなさい」
「はぁ?」
舞依は話が一切かみ合わない目の前の子供が、自分のことをからかっているのかと思い、思わずつい口が悪くなっていた。よく見ると、子供の首には黒光りする石がたくさん連なっている首飾りを付けていた。ずっと握り締めている木の棒といい明らかに異様な恰好をしていると思えた。
「私、これから家に帰って、塾に行かなくちゃいけないの。忙しいから話は手短にお願いね。私に用事があるみたいだけど、なんなの?」
「その心のこもっていない喋り方。無礼者め!」
子供は手に持っていた棒で、軽く舞依の頭を叩いた。舞依は思わず頭を押さえていた。
「痛ぁ。何すんのよ。暴力なんか振るって」
「そっちこそ、儂を指でつついたりしてもてあそんでくれたよな。お返しだ」
「はぁ? 何言っているの。私がいつあなたをつついたって言うのよ。あなた、おかしいんじゃないのさっきから。もうあなたの遊びに付き合ってられないわ。はい、さよなら」
舞依は自転車にまたがると、急いでその場から立ち去ろうとしていた。
「お、おい、待ってぃ! 話の続きを聞け」
後ろからは子供の声がしたけど、舞依は振り向きもせずにそのまま家路へと向かっていった。
「なんなのよ、人をバカにして。もう最悪」
一刻も早く子供のことを忘れたい思いから、舞依はペダルを回す脚がいつもよりも早くなっていた。
舞依の家は、高校から自転車で15分ぐらい距離の場所にあった。舞依は息を切らせながら予定より早く自宅に戻ってきた。閑静な住宅街の中、広大な敷地に高い壁を巡らす邸宅に舞依は暮らしていた。豪壮な門構えの前まで来ると、自分の目の前には先ほどの子供が立っていた。
「嘘? なんで、私より先にいるの?」
舞依は目を白黒させて、目の前の少年を見ていた。鼓動が一気に跳ね上がるまでおもいっきり自転車のペダルを回していた舞依を追い越して、家の前にいることなど考えられなかった。それになぜ、この子供は舞依の家を知っていたのかも不思議に思えた。
「待ちくたびれたぞ」
子供は全然、息も乱れていないし、まるでずっと舞依を待っていたかのように平然とした顔をしていた。
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