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「あなた、なぜ、私の家を知っているのよ。気持ち悪いな。ひょっとしてあなた、ストーカーなの?」
子供は思わず顔をしかめていた。
「すとーかー? なんだ、それは食べ物か? 何言っているか全然分からん。とにかく、約束した物をもらい受けにきた。早く出せ」
子供はおもむろに小さな手を差し出してきた。
「出せって、なんの話なの?」
「金の鈴に決まっているだろ」
舞依はきょとんとした顔をして首を傾げた。
「金の鈴? 意味分からないんですけど」
舞依の冷たい反応に子供の顔はにわかに険しくなった。
「まさか約束の件を忘れた訳ではないだろうな。いつぞやの雨の夜に、明日天気にしてくれるなら、金の鈴をあげると約束しただろ。せっかく翌朝、晴天にしてやったのに。儂を外に投げ捨ておって。礼儀知らずにも程があるぞ」
「えっ? どういうこと? 話がまるで分からないんですけど」
「自分で作ったてるてる坊主を忘れたのか! この恩知らずめ。もう一度、杖で叩いてやろうか」
子供は再び杖を振りかざそうとしたので、舞依は慌てて後ろに一歩下がっていた。
「ちょ、ちょっと待って。もう一度、頭を整理するから。今、てるてる坊主って言ったよね?」
舞依は一生懸命、頭を働かせていた。舞依の脳裏には、先日捨てたてるてる坊主のことが鮮明に浮かんできた。確かに子供が言ったようにてるてる坊主を怒りに任せて捨ててしまった。しかしそのことは誰も知らないはず。それなのになぜ、この子供は知っているのだうか。疑問が際限なく渦巻いていた。目の前の子供が、自分が作ったてるてる坊主などという非現実的な話など信じられる訳はない。しかし今、子供が話したことは紛れもない真実。これをどう自分の中で解釈すればいいのだろうか。
舞依は段々と目の前の少年が恐ろしく思えてきた。
「ごめん。私、急いでいるんで」
舞依は不安をかき消すように家の門口を開けて中に入ってしまった。そして、観音扉の門を強引に閉めてしまった。
「お、おい、ちょっと待って」
外から声は聞こえていたが、舞依は決して開けようとはしなかった。
「なんという失礼な振る舞い。無礼にも程がある。そうか。信じてないんだな。だったら、証明してやる。明日から七昼七夜、この街に雨を降らし続けてやる。儂のことを信じなかった愚かさを後悔するがいいわ。はっははは」
静かな住宅街に子供の声が響いていた。舞依は振り向きもせず自分の家へと小走りに走り出していた。
舞依は自分の部屋に戻ると、二階から壁の外の道路を眺めた。外には先程の子供の姿は既に消えていて、道路は人通りもなく閑散としていた。
舞依は思わず安堵の息を吐いた。
「もう、なんなのよ。あの子は。てるてる坊主だなんて、有り得ないでしょ。それに明日から雨を降らせるだなんて、神様じゃあるまいし・・・
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