第一章

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 舞依は言葉とは裏腹に、何か引っかかるものを感じていた。もし本当にあの子供がてるてる坊主なら、この前起こしたような天気を自在に操れるというのも嘘とは思えない。  それに舞依の家を知っていたのも納得がいく話ではあった。てるてる坊主は舞依の部屋でずっと飾っておいたのだから。となると明日から雨が降り続くことになるのだけど・・夢なら一刻も早く覚めて欲しいと舞依は願った。  舞依は手に持っていたスマホで、明日の天気予報を調べてみた。明日の天気は快晴となっている。今後、一週間晴れの日々が続き、雨が降る可能性はほぼ0パーセントの毎日が続いていた。 「何が、明日から雨を降らせるよ。マジ有り得ないでしょ。これでもし、明日から雨が降るというのならあの子は神様になるよね」  舞依は自分自身の不安を打ち消すように独り言を呟きながら、制服のブレザーを脱ぎ始めた。  翌朝、舞依は目が覚めると真っ先に窓の外に足を運んだ。外はどんよりと曇がかかっていた。 「えっ? どういうこと? 今日は快晴じゃないの」  驚いた舞依は思わず声を上げた。昨夜の天気予報は朝から一日晴れると告げていた。なのに、なぜ空は黒い雲に覆われているのだろうか。舞依は背中から冷たいものが走っていく思いがしていた。  学校に行くための身支度を整えた舞依は、朝食を食べるため階下に降りた。キッチンでは麗奈が朝食の準備をしている最中だった。 「おはよう。麗奈さん」 「おはようございます。舞依さん」  食卓の上には、舞依のために作られたフレンチトーストとマグカップに注がれた牛乳が置かれていた。 「今日は午前中にも雨が降りそうですね。舞依さん、傘を忘れずにお持ちくださいね」 「うん、そうする。でも、びっくりだね。雨だなんて」 「昨日の夜、突然、太平洋上に台風が発生して、関東にまっすぐ向かってくるみたいですね。こんな急激に発生する台風なんて聞いたことがないと気象予報士も言っていますよね。しかも五月に関東に上陸するだなんて。変な台風ですよね。さぁ、朝食の準備はできております。お召し上がりください」 「そうなんだ」  舞依は食卓の椅子に腰かけると、テレビを食い入るように見つめた。朝のニュースでは突然発生した台風に気象予報士も考えられない事態だと首をひねっていた。  舞依の顔はますます血の気が引いていった。  まさか本当に雨が降りだすなんて、あの子供が言ったことが現実に起きようとしていた。自分が作ったてるてる坊主が人間に変身するのも驚きだが、そのてるてる坊主は天気を自在に操れるなんて・・・・受け止めきれない現実に舞依は目の前の景色がゆがんでくる思いがしてならなかった。  舞依は学校に着くと、空はさらに黒い雲が広がり午後には台風の影響と思われる雨が少しずつ降り出してきた。そして舞依が下校する頃には本格的な大粒の雨へと変わり、街を水浸しにしていた。
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