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舞依は窓に吊るされたるてるてる坊主に顔を向けると、笑顔で話しかけた。
「てるてる坊主さん、今日はどうもありがとう。サンキュー、ダンケシェーン、シェイシェイ。全ての国の言葉を言っても感謝しきれないわ。本当にありがとう」
舞依は、てるてる坊主にキスをして、パジャマを脱ぎ出した。
それからしばらくして舞依は玄関のドアを開けた。チェックの赤いミニスカート、真っ白いブラウス、真っ赤なネクタイ、ピンクのポシェットを肩に掛け、そして頭の上にはリボンが付いたカチューシャを付けていた。口にはうっすらと赤いリップスティック、そして左手の薬指にはキラリと光る青い石の指輪、まるで絵本の世界から飛び出したアリスのように変身していた。
外に踏み出すと抜けるような青い空が舞依を迎えていた。舞依はさんさんと輝く太陽に手をかざしながら見上げていた。
良く見ると舞依の目の前には一メートルぐらいの水たまりが出来ていた。舞依はすらりと伸びた脚で、おもいっきり水たまりを飛び越えた。庭の芝生には美しい草花が咲いており、舞依は草花を愛でるように見つめていた。世界中の花が庭に埋め尽くされたかのような夢見心地な気分になっていた。
「舞依さん、傘持っていかなくいいのですか? 夜、雨降る可能性もあると天気予報が言っていますよ」
家の中から家政婦の麗奈が声をかけてきた。麗奈は長い髪をひとまとめにした中年の女性だった。舞依の家は母親が子供の頃、離婚をしていて今は父親と家政婦の麗奈と三人で大きな屋敷の中を暮らしていた。
「いいの。そんなことしたら、てるてる坊主さんに悪いから」
「何を言っているんですか。そんな子供みたいなことを言って」
麗奈は浮かれる舞依とは対照的に冷めた言葉を舞依に浴びせていた。
「もう来年は高校を卒業するんですよ。少しは冷静にものを見れないんですか?」
「ごめんなさい。私出掛けるのでもう時間ないの」
このまま麗奈と話を続けていると、またいつもの小言が続くと思った舞依は逃げるように家を飛び出していった。
「まったく・・・」
麗奈は呆れたようにため息をついていた。
夜、雨は再び降り出した。雨は昨日よりもひどく、バケツをひっくり返したような雨が降り注いでいた。
傘を前に向け急ぎ足で歩く人や、かばんを傘の代わりにし走る人が、みな舞依を見ては通り過ぎていった。
舞依はびしょぬれの格好で歩いていた。赤い目をして、重い足を引きづるようにしながら・・・。
横殴りの雨が容赦無く、舞依の顔に打ちつける。肌が透けて見えそうなぐらい体はすぶ濡れになり、髪やリボンは濡れて下に垂れ下がっていた。顎の部分や鼻先から水が盛んに滴り落ちていた。
舞依のすぐ脇を通る車は、水たまりの泥水をはねて通り過ぎていく。舞依の顔は、その度に泥だらけになっていった。しかし舞依はそれを拭おうとはしなかった。
雨はさらに強さを増し、大粒の雨が街を白くさせていった。
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