27人が本棚に入れています
本棚に追加
てるてる坊主を作っていた時のこと、てるてる坊主に晴れるようにお願いをしていたことを瞬時に舞依は思い出していた。
しかし舞依の足はてるてる坊主の方には向かなかった。自分が幸せだった頃を思い出すてるてる坊主。どん底の気持ちに打ちひしがれている今の自分には、嫌な思い出の一部でしかなかった。今の自分には、悲しい記憶を受け入れるだけの精神力はなかった。舞依は、てるてる坊主を拾いに行かず学校へと歩き出した。
学校に着いて教室に入ると、舞依は自分の机に座りながら考えていた。それはてるてる坊主のこと。いくら思い出したくない出来事だと言っても、てるてる坊主に何の責任があるのか。てるてる坊主は、自分の希望通り昨日は晴れにしてくれた。自分はそのことを凄く感謝して、キスまでしたのに。そのてるてる坊主を一時の感情で捨ててしまった自分。八つ当たりもいいところだ。自分の行動に嫌気がさす舞依であった。
舞依はやりきれなさそうにため息をついた。家に帰ったら、てるてる坊主を洗ってきれいにしようと思った。てるてる坊主に昨夜のことを謝罪をして、再びカーテンレールに吊るしておかなければならないと心に誓った。そうしなければ、ちゃんと約束を守ったてるてる坊主に申し訳なかった。
「どうしたの、舞依? 今日は元気ないね」
急に声をかけられて舞依はふっと我に返った。目の前には親友の明里がカバンを肩に背負ったまま立っていた。ショートカットの髪型の明里は、舞依と同じクラスメイトで同じテニス部に所属していた。
「昨日は部活休んで、どこに遊びに行ったのかな? ひょっとして伸也とデートかな?」
明里は舞依の顔をのぞき込むように訪ねると、舞依の表情がさらに浮かない顔になっていた。
「・・・」
舞依は唇をかんで、うつむいたまま黙っていた。親友の明里には伸也と付き合っていることを知らせていたが、昨日のデートのことは内緒にしていた。部活をさぼってまで伸也とのデートを優先して選んだことをさすがに親友の明里でも打ち明けられなかった。
それに昨夜、突然伸也から別れを告げられたこともしばらくは話すのは止めようと思った。たとえ親友であっても今の舞依にはとても打ち明けられるだけの心の余裕はなかった。
「たまにはデートもいいけど、テニスのことも忘れないでね。私とあなたはダブルスのパートナーなんだから」
「も、もちんだよ。今年は高校最後の夏だもんね。今年こそ公式戦に出られるように私も今日から頑張るよ」
舞依はしどろもどろになりながら答えていた。
「そうこなくちゃ、頼むよ、パートナー」
なんとか笑顔で話そうと舞依は取り繕ってみたが、内心では情けなさと悲しさで泣き出したい心境だった。もういっそこのまま学校を早退したい思いだった。
突然、教室のドアが開いた。担任の若い男の先生が元気に入ってきた。
最初のコメントを投稿しよう!