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指図をしてきた。これでは家にいても心の休まる暇はなかった。そのため、すっかり舞依は麗奈のことを苦手意識が芽生えてしまっていた。
「えっ、なんですか? よく聞こえませんでした」
麗奈は濡れた手をタオルで拭きながら、舞依の方に振り向いた。舞依は気まずそうに視線を落とした。
「あ、あのね・・・昨日は玄関を汚してごめんなさい」
舞依の語尾は頼りなさそうに消えかかっていた。
「いや、いいんですよ。これも仕事ですから」
麗奈は軽く答えていたが、言葉とは裏腹に麗奈の目は笑っていないことを舞依は敏感に気づいていた。麗奈は感情をなくしたような無機質な視線を舞依に向けていた。
「でも、そういうことは朝、言って欲しいですけどね」
麗奈の毒のある言い方に舞依はごくりと喉を鳴らした。どうしていいのか分からない舞依はうつむき加減に言葉を返した。
「う、うん。今後はもうしないから。ごめんね」
舞依は再び深く頭を下げると、自分の部屋へいそいそと戻っていった。もはやてるてる坊主のことなど麗奈に聞けるような雰囲気ではなかった。舞依はやはり麗奈のことが好きにはなれないということを再度認識する瞬間だった。
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