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ずのあなたの方こそ学校の恥だと思うけどね。テニスというのは紳士のスポーツなんだよ。もうちょっと相手を敬いなさいよ。だいたい、前から思っていたんだけどあなた、テニスがうまいからといってちょっと調子に乗りすぎじゃないの?」
まるで胸倉をつかみかからんばかりの勢いで迫ってくる明里に対して舞依は慌てて明里の二の腕をつかんでいた。しかしすみれは明里がにらみつけてもそ知らぬ顔で動揺する気配も見せなかった。
「先輩こそ、そんなに興奮して迫ってきて、そちらの方がテニスのマナーがなってないんじゃないんですか」
「なっ・・・すみれ、よくもぬけぬけとそんなこと言えるわね!」
「お願い、止めて。私のせいで明里は怒ったりしないで。第一、私がへたなことは事実だし、今日の私は確かに集中力を欠いていたのも認めるから」
舞依はたまらず話に飛び込んできた。
「もう舞依だけの問題じゃないの。私はすみれの態度が前から気に入らなかったんだよ。いつも人を見下したような態度を取ってさ」
すみれは鳴り物入りで、テニス部に入ってきた一学年年下の後輩であった。幼少の頃よりテニスを始めたすみれの腕は超一流で、部内では誰一人としてかなう者はいなくなっていた。その実力を買われて一年の時から数多くの試合に出場をしていた。
顧問の先生や部外の生徒からも特別視されていたことを自覚しているすみれは、徐々に先輩だろうと横柄な態度を見せることが多くなっていた。そのため明里達上級生からは面白くないと思っている者も数多くいて、今では完全に上級生との間にあつれきが生む結果になっていた。
コートの中は緊迫した空気に包まれていた。
「もう面倒なことになってきたなぁ。余計なこと言わなきゃ良かった。ごめんなさい。私が調子に乗ってました」
すみれは頭をかきながら、面倒くさそうに謝っていた。
「いちいち言い方がひっかかるんだよね、すみれは。素直じゃないよね。その言い草は!」
すみれの態度は明里の怒りをさらにエスカレートさせていた。
「もういいって、みんなも見てるしもう止めようよ」
コートの周囲では、ほぼ全員が二人のやり取りに視線を向けていた。隣のコートで試合をしていた者まで試合を中断して二人を見ていた。いつの間にかみんなの視線が自分達に注がれていることに気づいた明里は、怒りの熱が急激に収まっていった。
「まったく。もういいよ。これからは口に気をつけて喋るんだよ」
明里は言い足りない気持ちを抑えながら口をつぐんだ。すみれとパートナーは、何も言わずそのままコートから立ち去って行った。
「ごめんね、明里。私のせいで嫌な気分にさせて・・・」
「いいんだよ。いつかは言ってやるつもりだったから・・・あの思い上がった性格は直接言わなきゃ分からないからね」
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